トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部トレースに失敗  点線は推定トレース

編笠山・権現岳の展望と植物の写真を見る
編笠山・権現岳 (2524m・2715m 山梨県) 2008.8.9 晴れ・曇り・雨 2人

観音平駐車場(4:53)→雲海(5:40)→押手川(6:18-6:26)→編笠山山頂(7:43-8:07)→青年小屋(8:36-8:52)→ノロシバ(9:19)→権現小屋(10:09-10:14)→権現岳山頂(10:18-10:22)→三ツ頭(11:09-11:21)→観音平分岐点(11:23)→木戸口公園(12:08)→延命水(12:59)→八ヶ岳横断歩道(13:08)→観音平駐車場(13:39)

 昨年、八ヶ岳の主峰赤岳に登ったとき、雲海に浮かぶ美しい権現岳が望めた。赤岳より南には権現岳と編笠山がある。南八ヶ岳の全てを制覇するために、八ヶ岳連峰の最南端にあるこの2つの山を登る計画を立てた。編笠山への登山口はいくつかあるが、観音平からのルートが最短距離となる。観音平から編笠山を経て権現岳を踏み、三ツ頭経由で観音平に戻るコースなら、日帰りでなんとか回れそうだ。早朝から歩き始め、4時過ぎに戻る計画書を作った。が、計画は大幅に狂うことになる・・・。

 小淵沢ICで中央道と垂直に交差する道路を北上。道の駅「こぶちざわ」を右に見ながら3kmほど走ると、左に「観音平」の標示が現れるのでここを左折。急傾斜の道を真っ直ぐ上って、カーブを繰り返すと広い観音平駐車場に着く。左折して4kmほどの距離。小淵沢ICから15分ほどである。まだ4時半であるにも関わらず、10台ほどの車が停まっていた。小屋泊まりの登山者の車が多い。身支度をしているパーティもある。広場にトイレはないが、駐車場入口から100mほど歩けば観音平グリーンロッジのトイレがある。

 登山口の案内板を確認して、登山計画書を提出し、歩き始める。計画よりも30分以上早く出発。すぐに展望台への道が左に分岐しているが、最短距離の直進を選ぶ。天然林の樹林帯を緩やかに登っていく。静かな空間に夏山の香りが漂う。東の空が朝焼けで赤く色づいて美しい。ササ付きの道はよく踏まれており、マルバタケブキの黄色い花が見られた。適度な傾斜の登りにピッチを掴む。大岩の間を抜けるとすぐに標識が現れた。「雲海」と呼ばれる場所で、展望台からの合流点でもある。歩き始めてほぼ1時間。コースタイムで登ってきた。休息無しで歩く。

 コメツガの適度な傾斜を登っていく。見たことの無い大型のランが花を咲かせている。後に調べてみるとエゾスズランであることが分かった。ササが少なくなり、気持のいい針葉樹の林が続く。時折、大岩も現れる。右にベンチを見ながら、広い尾根を登り、大きな岩が重なり合う谷状の道を登る。シャクナゲも現れる。コメツガの林床は苔むして美しい。後方から3人パーティに追い越された。

 雲海から40分ほどで押手川と呼ばれる場所に到着。案内板によると、昔、登山者が苔を手で押さえるとコンコンと水が湧き出したという。ここは編笠山山頂を迂回して青年小屋に至るコースの分岐点でもある。先ほど追い越されたパーティが休憩してみえた。聞けば、今日は権現小屋で泊まるとのこと。このパーティのピッチなら赤岳まで行けそうだ。おにぎりとパンを食べて一息つく。3人は先に出発。すぐに単独男性が追い越して行った。後を追って出発。苔の中でひっそりと咲くコバノイチヤクソウが美しい。

 林に日光が差し始めた。苔むした斜面は次第に傾斜が増してきた。岩の多いところもある。コイワカガミの葉の中に小さなランを見つけた。ミヤマフタバランのようだ。傾斜はさらに増し、道幅が狭くなり、今までとは様子が変わった。周囲の木々の樹高も低い。明るい展望地に出て振り向くと、思わず声が出た。南アルプスが美しいシルエットを作っている。雲が湧く前に編笠山山頂でもこのパノラマを見たいものだ。小屋泊まりの下山者と出会うようになる。

 鉄梯子を登り、谷状の急な岩屑の道を登る。ハイマツ帯の溝で、かなり足を上げなければならないところもある。最後の頑張りどころ。時折立ち止まって振り返り、南アルプスを眺める。GPSで山頂が近いことを知る。編笠の頭の部分だ。雨? 岩にポツポツと細かいシミができている。よく見るとこの辺りの岩は黒い鉱物の結晶が散らばって、雨のように見える。

 これでもかと急登が続く。「山頂までホントにあとチョット!」というアルミ看板に励まされてハイマツ帯を登ると、樹木が消え草地となった。山頂は目の前。いきなり花・花・花。オヤマリンドウ、ミネウスユキソウ、ウメバチソウなどが足元を飾る。青空に向って岩を踏んで山頂へ。360度、大展望。追い抜いていった4人が休息中だった。

 まずは、山の同定。何と富士山が薄っすらと雲海に浮かんでいるのには驚いた。昨年に引き続き、富士山を望むことができた。南アルプスは鳳凰三山、北岳、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、鋸岳が並ぶ。その西には中央アルプス、御嶽山、乗鞍、穂高がぐるりと取り囲む。そして何といっても、南から見る八ヶ岳がすばらしい。最北端の蓼科山から阿弥陀ヶ岳、赤岳。その間に横岳が見える。そしてその右にはこれから歩く権現岳。鶏冠のような岩を乗せた山頂が望めた。手前には権現岳を守るようにギボシの三角形が連なる。まだまだ遠い。押手川で追い越された男性と山談義。全国の山を歩かれているベテランの方だった。

 雲が湧き、赤岳が雲に隠れ始めたので、急いで青年小屋を目指して下る。シャクナゲやコメツガなどの潅木が覆う道を下ると、眼下に青色の青年小屋が見えた。狭い道を急降下していく。正面にギボシと権現岳が大きく立ちはだかる。赤岳は雲の中。小屋が近づくと、潅木帯を抜け、大岩が積み重なる場所に出る。赤ペンキの○印、矢印を追って、岩を飛びながら歩いて青年小屋に到着。ベンチで一休み。小屋の玄関には「遠い飲み屋」と書かれた赤提灯が下がっていた。ガラス越にかき氷の旗が見えたので、イチゴのかき氷を注文。冷たい氷が美味しかった。知らぬ間に、頭上は雲に覆われている。雲の動きから、大気はかなり不安定。午後には雷雨と予想していたが、もっと早く天候が崩れるかもしれない。

 小屋を後に、セリバシオガマやヒメシャジンの花を見ながら樹林帯を抜け、岩の斜面を登る。後方に小屋が小さくなっていく。20分ほど歩くとなだらかなハイマツ帯になり、正面に美しい三角形の岩山が現れる。ギボシの前衛峰だ。標識のある赤い地面の裸地に出た。ギボシの前衛峰と権現岳の展望地。ここがノロシバと呼ばれる場所で、2530mの標高である。チシマギキョウが咲いている。前方にはギボシ前衛峰を登る登山者が見えた。

 一旦下って、痩せ尾根から左に深い谷を見下ろす。前衛峰に向って駆け上がる荒々しい岩壁は一部崩壊してすさまじい様相を見せる。石屑の斜面に取り付く。この付近はイブキジャコウソウやミヤメコゴメグサ、シコタンハコベなど花が豊富で、ベニヒカゲが飛び交っていた。急な斜面を足元に注意して赤ペンキを拾っていく。後方には編笠の優雅な山容が望めた。岩の間から茎を伸ばすミヤマダイモンジソウやタカネニガナに元気づけられて標高を稼ぐと、巨大な岩壁に突き当たり、道は岩の壁をトラバースするクサリ場となる。三点支持でクサリに取り付き、ゆっくりと足を進める。

 クサリ場を抜けると権現岳が近づいた。ガレ場をジグザグと登って再び稜線に出る。今度は本物のギボシが目の前に現れ、右には青い屋根の権現小屋が見えた。ギボシの三角形の左側にはカメレオンが貼り付いたようにゴツゴツした岩場がある。その下は深い谷。

 稜線を少し下り、下りて来る若い単独女性と情報交換。この先の鞍部からいよいよギボシへ取り付く。ギボシの山頂のすぐ右側を巻くコースで、この三角形をほぼ頂上まで登りつめなければならない。多くの花が咲く鞍部からギボシを見上げると、すでにそこには美しい三角形の姿は無い。山腹の右側を回り込む。再びクサリ場を通過。阿弥陀ヶ岳に似たもろい岩場で、落石に注意しながらクサリをクリアー。難所が続く。今度は岩壁の細道をクサリを掴んでトラバース。下を見ると恐ろしい。スリルのある道は、こんどは上へとさらに続く。

 岩場を回り込んで稜線に出ると、ギボシの山頂を巻いたことが分かった。先を行く3人パーティーがギボシ山頂から下りて来るところだった。目の前に迫った権現岳と権現小屋がガスに隠されていく。と、その時、大粒の雨がぱらぱらと落ちてきた。頭上には灰色の雲が渦巻いている。時間は10時を回ったところ。この時間に雨になるとは・・・小屋に向ってガスの稜線を下る。小屋に着く頃、雨は止んだ。小屋の主人に状況を聞くと、この空模様ではいつ雷雨になってもおかしくないとのこと。三ツ頭経由で下るルートをとると、この先40分、稜線歩きが続くので雷に遭遇すると危険であり、戻ったほうがいいかもしれないと言われた。しかし、今通過してきた岩場で雷に遭遇すると、それこそ逃げ場がない。三ツ頭へのルートにクサリ場は1箇所しかなく、稜線も緩やかと聞き、迷わず三ツ頭経由を下ることにした。

 小屋泊まりの3人と別れて小屋を後に権現岳に向う。赤岳への分岐点を通過。権現岳まで1分の標示を見ながらすぐに大岩が聳える権現岳山頂に着いた。ガスが流れる。三脚を出して記念写真を撮る時間は無い。岩の上にまで登る余裕も無い。岩の下にある標識の前で写真を撮って先を急ぐ。計画ではここでランチの予定であったが、とにかく稜線を離れることを最優先にした。ガスが切れ、日が差し始めた。編笠山からギボシへの歩いてきた稜線がよく見える。ここから見るギボシは、先ほどから見てきた鋭い山容が想像できないほど丸い頭をしているのが面白い。

 ザレた道を慎重に下りクサリのある岩場を通過。ヒメシャジンの群落がすばらしい。正面には三ツ頭がガスの中から姿を現した。犬を連れた軽装のご夫婦が登ってみえた。ここまで犬が歩いてきたことにびっくり。この先の岩場はどうするのだろうか。雷雨が近いことを告げ、先を急ぐ。後方には形を変えた権現山が見える。小ピークを巻くと、前方に三ツ頭が大きくなった。山頂に人影が見える。道はぐんぐん下って樹林帯に入る。三ツ頭手前の鞍部は樹林帯である。観音平へのコースはこの先の三ツ頭を登りつめてその先から支尾根に乗り換える。

 三ツ頭への登りが始まる。まだ、雨は降りそうにない。樹林帯を抜けて視界が開ける。後方に権現岳。その右に赤岳が勇壮な山容を見せる。ここから見る赤岳は最もすばらしい形ではないだろうか。時折ガスが流れるが、青空が見え、南は晴れている。適度な斜面をすばらしい展望を見ながら登っていく。青年小屋から何も食べずに、ノンストップで歩き続けているのでシャリバテになってきた。

 鞍部から15分ほどで三つ頭に到着。頭上は青空だったので、ここで行動食として持参したパンとスポーツドリンクで腹ごしらえ。食べ終えてふと頭上を見上げると、いつの間にか青空が消え、まるでキノコ雲のように灰色の雲が円形に広がり始めていた。積乱雲の縁のようだ。すばやくパッキングして三ツ頭を後にした。2分ほど下ると観音平への分岐点。直進すれば天女山へ続く。稜線を離れて右へ下る。稜線上で雷に会わず、胸をなでおろす。

 シャクナゲやコメツガの潅木地帯を下り、草付きの樹林帯へ。稜線から10分ほど下ったところで雨が降り出した。間一髪だ。カッパを着てザックカバーをかけた。本格的な雨降りとなり、後方で雷鳴が響く。樹林帯に入ったとはいえ、この先、八ヶ岳横断歩道まで尾根歩きである。雷の危険が去ったとは言えない。右にはガスの中に編笠岳が見え隠れする。なだらかな尾根道を下っていくと木戸口公園の標示がある所を通過。標高は2240m。雷鳴に追われてノンストップで下る。

 雨は小降りになったり大降りになったり。やがてマルバタケブキの咲くササの斜面の道となる。右山で下っていくとササが切れた辺りで休憩しているパーティに追いついた。青年小屋で一泊して観音平へ下るとのこと。話をしていると稲妻が光った。雷鳴までに5秒。後方2km以内に雷が迫っている。先を急ぐ。

 「笹すべり」と呼ばれる、ササの樹林帯をぐんぐん下っていく。気持ちのいい場所で、この辺りでもエゾスズランを見つけた。雨も小降りになり雷鳴が聞こえなくなった。南方向が明るい。雷雲を抜けたと思った。その時、白い小さな物体が目の前に落ちてきた。なんと1cmほどの氷。雹だ。雨が強くなった。そして、ものすごい勢いで雹が降ってきた。体に当たる氷の粒がはじけ飛ぶ。木の葉が舞い、森がざわめく。コメツガやササをたたく音に混じって、右前方で雷鳴がとどろく。巨大な積乱雲の真下にいるようだ。雷鳴は左からも響く。降り続く雹の中を夢中で下った。道は白く見えるほど氷の粒が散らばっている。かつて、何度か雹を体験したが、これほどの量が降り注ぐ雹には出会ったことが無い。そして、なかなか止まない。雹は10分ほど降り続いた。

 雹が止んだ頃、延命水の看板がある場所を通過。雨は土砂降りとなり、道は川のようなところもある。延命水から10分ほど下ると八ヶ岳横断歩道に出た。コースタイムよりもかなり早く着いた。ここには八ヶ岳神社があるが、雨が強く、確認できなかった。ここもノンストップで歩く。雷鳴が響く中、遊歩道を西へ。押し出された岩場を通過。雨の中、丸木階段を下り、今度は登り返す。さすがに疲れてきて、この登り返しが長く感じた。雨の中で咲く白い花はイケマ。登りきってすぐに東屋が現れ、駐車場に着いた。まだ1時半過ぎ。超スピードで下りて来たことになる。

 駐車場では下山してきた何人かが着替えをしていた。ハッチバックの下で雨具を脱ぐ。靴もずぶぬれ。靴を履き替えていると、青空が現れ、日が差し始めた。雷鳴も消え、今まで雨が降っていたとは思えない。ベンチで一息つき、下山者と話をした。駐車場は車でいっぱいになっており、路肩まで駐車してある。人気の山だ。計画のコースを歩くことができ目標は達成したものの、とにかくあわただしい山歩きとなった。このコースは日帰りが可能であるが、山の天気は変わりやすい。小屋泊まりで午前中に行動する計画を立てるべきと反省。

 それにしても、八ヶ岳はいい山だ。花あり、ちょっとしたスリルあり、展望あり・・・。昨年に続き、今回も夏山の面白さが凝縮された山歩きができた。日が差したのはつかの間。再び頭上には黒い雲が迫り、駐車場を出発する頃、再び雨に。道の駅「こぶちざわ」で温泉につかり汗を流した。次の目標は北八ツである。
 山のリストへ