天生湿原 (1400m 白川村) 2009.6.27 晴れ 4人

天生峠(9:30)→湿原入口(10:01)→カツラの大木(10:44)→カラ谷分岐点(10:55)→カツラの門(11:15)→木平湿原分岐点・谷(11:48-13:00)→ブナ探勝路分岐点(13:23-14:32)→ミズバショウ群生地(15:15-15:20)→湿原のお社(15:48-15:55)→天生峠駐車場(16:24)

 梅雨に入った6月中旬、地域活動でお世話になっているMIZUさんから招待状が届いた。チェロと電子ピアノによるホームコンサートへの招待だった。休日の昼下がりにMIZUさん宅を二人で訪れると、MIZUさんの友人や近所の方々、十数人が集まってみえた。部屋にチェロと電子ピアノを持ち込んで、MIZUさんの友人の女性二名の方のすばらしい生演奏を聞くことができた。

 MIZUさん宅は込み合った住宅街にありながら、その庭にはトチやムクゲ、グミなどが巨木となって頭上を覆い、苔むした地面にはミズヒキやハルトラノオなどが群落を作っている。最近、作られたという庭に張り出したウッドデッキでチェロの穏やかな音色を聴く。初夏の風が木々を揺らし、かすかなざわめきとチラチラと落ちてくる光の中で体験するコンサートは、まるで深山の樹海の中で行われているかのような錯覚に陥った。すばらしい癒しの時間を過ごすことができた。その後、コンサートに参加された館長さん(昨年、大倉滝にご一緒した生物の先生)を交えて、植物談義。そして、大倉滝植物観察会に続く第2段として、天生湿原植物観察会の計画が動き始めた。
 
 参加メンバーは、当初、大倉滝と同様の館長さん、MIZUさん、そしてホームコンサートでお会いしたUさんと我々の5人であったが、Uさんが都合で参加できなくなり、4人で出発。天気は晴れ。梅雨時にしてはラッキー。東海北陸自動車道を走り、白川郷ICで降りて、戻るように南進。荻町の合掌集落に入る手前から折り返すように左折して国道360号線を登る。カーブの続く道をかなり上り、白山展望地でまだ雪の残る白山を眺めた。なだらかな道となり、ソウレ山を回り込むと天生峠に着いた。2年ぶりの天生峠である。

 大きな駐車場には既に多くの車が停まっている。天生湿原の花の最盛期は6月上旬であり、その時期に比べれば車の数はかなり少ない。トイレのある下段に停めて出発。登山口のテントで入山料500円を支払って、パンフレットをいただく。終わりかけたマイヅルソウを見ながら林道に入る。「登山靴のお掃除を!」の標示に従って、マットで靴底をこする。オオバコなど進入植物を防止するためである。2年前にここを訪れたとき、入口にあるヤマアジサイの前年の装飾花が葉脈だけになってきれいなオブジェとなっていたが、今回も同じものを見ることができた。
 
 林道の脇にある大きなブナの木を見上げながら山道に入る。後方から女性のグループが登ってきた。「大きなザックですね。」と声をかけられ、「湿原散策と宴会ですから。」と答える。愛知県からの登山者で初めて籾糠山に登るという。林道脇に咲くギンリョウソウやツクバネソウ、ゴゼンタチバナなどの写真を撮りながら歩く。アップダウンを繰り返して、湿原の入口へ。ベンチで休息。ここで道は左右に分かれて湿原を周回できる。前回同様に右に入る。

 アカモノ、ツマトリソウ、ゴゼンタチバナ、マイヅルソウなど足元には花が続く。右の湿原に寄ってみると、モザイクのある大きな葉のミズバショウは花が終わって、鬼の金棒のような緑色の実が伸びている。1株だけ花が見られた。湿原の中央にはワタスゲや咲き始めたニッコウキスゲが見えるが、写真を撮るには遠すぎる。湿原を左に見ながら木道を歩く。コバイケイソウは花が終わりかけており、またバイケイソウの花はこれから。ツバメオモトやエンレイソウ、リュウキンカも終わっており、ちょうど花が入れ替わる端境期。湿原奥のベンチの手前で一輪のリンドウを見つけた。タテヤマリンドウであり、帰路たくさん見つけることができた。
 
 ベンチの横の標示板には湿原内の乾燥化を促進するイヌツゲやヤマドリゼンマイを除去していると書かれており、散策道にはヤマドリゼンマイの乾燥した根がいくつかころがっていた。ベンチで休憩。館長さんのザックから分厚い植物図鑑が2冊も出てきたのには驚いた。
 
 一息ついて先へ進む。一旦下って、ミズバショウが青々と育った湿原を横切り、谷川を渡る。ヤマクワガタやカラマツソウ、ラショウモンカズラ、ツルキンバイ、オオバミゾホウズキなどが見られ、川べりの大きな葉はマルバタケブキかオタカラコウらしい。清流には小さな魚が泳いでいる。
 
 谷を渡ると、カツラの大木がある。6月上旬にはニリンソウの花が一面に咲いていた場所であるが、今はヤグルマソウの大きな葉が占有している。緑の夏草に覆われた道を歩くと、館長さんがサイハイランを発見。初めて見るランであり、今回のお目当ての花でもある。将軍の持つ采配に似ていることから、この名前が付いたと教えてもらった。この付近はサイハイランの群落で、ウワバミソウやコウモリソウの自生する草むらでたくさんの花を見つけることができた。しゃがみ込んで植物観察が続く。

 ブナ探勝路分岐点からカラ谷コースへ入る。コウモリソウの群落があり、茎が黒いものと緑色のものが混生しているのが面白い。カラ谷を右に見ながら緩やかな道を歩く。ブナの大木が見られ、中にはイワガラミかツルアジサイの太い幹が絡みついた木もある。白色と緑色の花のユキザサが見られるが、茎が褐色であることからどちらもヤマトユキザサのようだ。日が当たるヤグルマソウは紫に色づいていることも教えてもらった。四方に葉を広げたトチバニンジンの中央から蕾が立ち上がっていた。根は朝鮮人参のようになっているそうだ。道の左側に、大岩の上に乗ったように枝を広げるモミジの木があった。どうしてこのようになったのか、岩の周りで観察。周囲の土が浸食されてできたと推定。

 ここから10分ほど歩くとカツラの門が現れた。写真を撮ろうと後方に下がったが、それでも全体がファインダーに収まらない。根元がヤグルマソウの大きな葉に覆われて、カラ谷の主のごとく立ちはだかる姿は、この森の神を思わせる。門を抜けて登っていくと、コケイランが見られた。さらにすぐ先にはキヌガサソウの群落地があった。今日のお目当てのキヌガサソウはちょうど最盛期で、美しい花を見せてくれた。さらにノビネチドリのピンク色の花を見つけた。カラ谷は花の宝庫。
 
 左の山から引かれた水場で喉を潤す。天生の森の天然水は冷たく、最高に美味しい。ペットボトルにこの水を詰めた。頭上にムラサキヤシオ。まだ咲いているとは思わなかった。再びキヌガサソウの群落地を通過して木平湿原の分岐点に突き当たった。今日の計画ではカラ谷途中から引き返すことを考えていたが、ここまで登ってしまった。この先の谷でランチにして、帰路は木平湿原経由で戻ろうと思ったが・・・。

 籾糠山方向に谷まで歩いてランチにする。まずはビールとノンアルコールビールで乾杯。燻製、焼肉、冷やし蕎麦、ドライカレーのメニュー、館長さんからのお菓子とミカンをデザートに天然水のコーヒーを楽しんだ。MIZUさんが持ち上げたフルーツはこの先で食べることに。山談義、植物談義をしながら1時間ほどでゆっくりした。MIZUさんとらくえぬが籾糠山に登るということになり、急いで出発。計画を変更して籾糠山方向へ急斜面を登る。
 
 ブナ探勝路分岐点から元気組みの2人はトランシーバーを持って籾糠山へ。館長さんと2人で、分岐点で待つことに。分岐点付近はツガの大木が多く、林床は様々な植物で緑の絨毯となっている。時折通り過ぎる登山者と挨拶をしながら、写真を撮ったりしてのんびりした。「山頂に到着、キバナシャクナゲあり、下山開始」など、トランシーバーに連絡が入る。久しぶりにトランシーバーが活躍。2人が下山してきたところで、MIZUさんのビワとサクランボを頂く。よく冷えて美味しい。4人で記念写真を撮って、帰路はブナ探勝路を下る。
 
 なだらかな道が続く。この辺りのマイヅルソウはまだ蕾で、驚いたことにツバメオモトの花が残っていた。ブナの大木が増え、急斜面を下る。ブナ探勝路というだけあって、見事なブナの森である。大木を見上げながらぐんぐん下っていく。命を終えて横たわった大木や幹の途中から折れてツタウルシが絡まる枯れ木、ツリガネタケを身に付けて寿命を全うしようとブナ・・・。時の流れの中で天生の森はゆっくりと生と死を繰り返す。登山道脇にブナの切り株があったので、MIZUさんが年輪を数えてみると、100年以上はたっている木だった。
 
 谷を渡るとミズバショウ群生地の標示。群生地に寄ってみる。湿原は緑に覆われ、6月上旬のミズバショウの咲く頃とは全く違う様相。引き返して、美しいブナ林を歩いて、カラ谷分岐点に戻った。カツラの大木を通過し、湿原へ。帰路は湿原の南側の道を歩く。こちらの岸のコバイケイソウはまだ花が咲いている。湿原の中央にはたくさんのワタスゲが見られるが、写真が撮れる位置にない。

 左に木道が分岐しており、前回寄らなかったお社に寄ってみる。湿原には一面にタテヤマリンドウが咲いており、またモウセンゴケもたくさん見られた。お社には「匠屋敷の伝説」と書かれた標示板に籾糠山の名前の由来が記されている。籾糠山の名前の由来が分からなかったが、ここで回答が得られた。湿原を後に、まだこの時間でも登ってくる観光客と挨拶しながら、駐車場まで戻った。予定よりもかなり遅く下山。残っている車も少ない。

 天生の森を1日歩いて、初めて見る花にも出会った。植物の名前もたくさん教えていただいた。館長さん・MIZUさんのおかげで、いつもとは違う充実した山歩きを楽しむことができた。
 
 天生峠を跡に、白川郷へ下る。登って来るときに見えた中滝で車を停めた。ゴーゴーと落ちる迫力ある滝を見物。ここでも植物観察。ウリノキやバイカウツギなどの写真を撮った。さらに下る途中で、ヤマオダマキを見つけて再び停車。ここでクモキリソウにも出会うことができた。

 白川郷を通過して、平瀬の大白川温泉しらみずの湯に寄った。三方崩山へ続く尾根を見ながら汗を流し、岐阜へ向った。



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