荒島岳の花と地図を見る
荒島岳 (1523m 福井県) 2005.6.18 晴れ・曇り 2人

勝原スキー場駐車場(7:31)→ゲレンデ上部・リフト終点(8:12)→山頂まで3km表示(8:38)→シャクナゲ平(9:48-9:52)→佐開分岐点(9:55)→荒島岳山頂(11:01-12:49)→シャクナゲ平(13:40)→ゲレンデ上部・リフト終点(14:43)→駐車場(15:12)

 今年3月、野伏ヶ岳から眺めた荒島岳が忘れられない。灰色の空に霞む白い荒島岳はまるで水彩画のように美しかった。今年、登らなければならない山のリストに加えた。荒島岳は日本100名山である。深田久弥が選定する際、能郷白山と荒島岳で競った話しは有名。結局は深田久弥のふるさとの山である荒島岳が選定されたが、このことは多くの山談義で話題に上がる。福井県の人は「やはり荒島岳」、岐阜県の人は「いやいや能郷白山」と言うらしい。この話題についていくためにも登って、確かめたいと思っていた山でもある。

 東海北陸自動車道の白鳥ICから中部縦貫自動車道を経由して九頭竜ダムを見ながら和泉村に入る。さらに川沿いに下って仏尾ダムを通過して勝原スキー場の案内に従って左に登ればすぐにスキー場の駐車場に着く。広い駐車場にはすでに10台ほどの車が停まっていた。中にはマイクロバスもある。遠方の車が目立つ。さすが100名山、全国区である。

 立派なトイレがあり、その横の登山届けボックスで届けを出す。山頂まで3時間10分の標識。公式コースタイムは3時間45分だからちょっと早足の表示。見上げればゲレンデに伸びるコンクリート道。ジグザグにはるか上方に続いている。手前の尾根に遮られて荒島岳山頂は見えない。今回は標高差1200mのロングコース。気合いを入れてゆっくり登ろう。

 GPSのスイッチを入れてスタート。まずはゲレンデのやわらかな廃材チップの上を歩く。朝から真夏のような太陽が照りつける。コンクリート道から草の中をショトカットして幅の狭いゲレンデをリフトのワイヤーをくぐりながら折り返して登っていく。ススキやクズの夏草に混じってピンク色のササユリがアクセントをつける。

 炎天下の急斜面はさすがに暑い。おまけに足下はガレて歩きにくい。ゲレンデ最上部はリフトに沿って登っていく。前方左にリフト降り場。その向こうには荒島岳への尾根が見える。後方の山が立ち上がってきたが遠方の山は霞んで見えない。左後方には大野市の田園が見える。歩き始めて40分、暑さでかなりバテ気味。なんとかゲレンデ上部に到着。この調子で山頂まで登れるか不安になった。

 ここから山道に入る。コナスビやハナニガナの黄色い花を見ながら、登山口の表示柱を通過。ようやく日陰になった。道の真ん中で休憩。ササユリの蕾がいくつか見られる。すぐに美しい花を咲かせるであろう。淡いピンクのヤマボウシが頭上を飾る。花を終えたハンショウズルの緑色の巻き毛が面白い。今に羽毛の種を飛ばすだろう。コアジサイやタツナミソウもきれいだ。

 息が落ち着いたので出発。日陰は暑くなく、ようやくいつもの調子を取り戻す。エゴノキの白い花を踏みながら滑りやすい赤土の道を登っていく。エゾハルゼミが鳴いている。この蝉の声を聞いたのはちょうど1年前、桧峠から大日ヶ岳を目指したとき。鳴き声を聞きながら昨年が懐かしく思い出された。

 ミズナラに替わりブナの木が増えてきた。シャクナゲ平まで2kmの表示を通過。サンカヨウの実を見ながら、ロープ付きの赤土の急坂を登り、美しい天然林を登っていく。なだらかな道にはむき出しになった木の根が網の目のようになっている。道の所々には丸木で作られた排水溝があり、「愛山会」と書かれた溝の泥を掘り出す木製のスコップが置かれていた。この辺りからブナの大木が目立つ。大きなコブのあるブナも多い。山の精が宿っているような風格がある。ここのブナ林は、白山や別山、三方崩山などに登ったときに見たブナ林に負けない美しさだ。

 ゲレンデ登りの疲れもすっかり忘れて、巨大な緑の癒しのトンネルの中を歩く。実に気持ちがいい。山頂まで3kmの表示を通過。標識の前にあるレンゲツツジが美しいオレンジ色の花を咲かせていた。イワウチワやバイカオウレンの群落も見られ、4月は花の道になるであろう。左に大きな「トトロの木」と呼ばれるコブのあるブナの大木を見ながら丸木の階段を登って、再びなだらかな道を歩く。

 小鳥や蝉の声を聞きながら、木漏れ日の道は続く。休息中の登山者を追い抜き、左右が切れ落ちた尾根で休息。ゼリーが美味しい。湿った広場を通過し、丸木階段に取り付く。再び湿地帯を通過し、また丸木階段。美しい黄色いランが可憐な花を咲かせていた。帰って調べてみるとコケイランであった。山でランを見つけるとなぜかうれしい。

 ランの写真を撮っていると単独男性に追いつかれた。聞けば大阪からみえたそうで、関西100名山を制覇し、さらに周辺の山を歩いてみえるそうだ。この出合いがきっかけで、今回の山歩きが実に楽しいものとなった。ブナ林の中、急緩繰り返しながら高度をかせぐ。1年ぶりにギンリョウソウと対面。

 一旦緩やかに下って湿地を渡り、またまた丸木の階段に取り付く。今度は半端ではない急登のようだ。GPSで確認すると、シャクナゲ平手前の急登のようだ。可憐なタニギキョウの花を見ながら、一歩一歩登っていく。階段は遙か上まで続く。段差が大きく、歩きにくい。階段の途中で下山者とすれ違った。朝5時過ぎから登り始めたとか。早朝、山頂はガスで展望はよくなかったそうだ。

 階段を登りきって再び階段。1.5km表示を見ながら登り切ると、前方から賑やかな話し声が聞こえてきた。アカモノの花を見ながらシャクナゲ平に飛び出してびっくり。シャクナゲ平は20人以上の登山者で埋まっていた。食事中のようだ。山頂と勘違いしそうな風景である。

 ザックを下ろして一息。「深夜バスで来たから、今、昼ご飯です」 聞けば、東京からバスで来た団体さんで、5時半頃から登り始め、山頂を踏んで下山途中。登りは中出コース、帰路は我々が登ってきた勝原コースを下るという。さすが100名山。全国区だ。皆さんに挨拶して山頂を目指す。

 ここから、登山ルートは左に直角に曲がり、一旦下る。荒島岳の公式ホームページによると、山頂までのコースタイムは3時間45分。シャクナゲ平から山頂までは1時間半かかる。まだ気が抜けない。下る途中で右に佐開へのルートを見ながら鞍部まで下る。尾根であり樹間から周囲の山が見られた。ここから、もちが壁と呼ばれる急な尾根登りとなる。

 頭上にタニウツギを見ながら太いクサリの付いた丸木階段を登る。滑りやすく慎重に登った。先ほど出会った男性(後日、メールを頂きました。Aさんとお呼びします)と一緒に登っていく。ロープ場あり、木製階段あり。ブナ林歩きとはすっかり異なり、これまた楽しい登りである。まとわりつく虫が増えてきた。

 展望のいい尾根を通過。ここから大野市の平野とシャクナゲ平、その向こうに小荒島岳が見える。空気が澄んでいれば白山方面はすばらしい景色に違いない。再び急登。今度は展望のいい岩の上に出た。ここからもすばらしい展望が得られる。ツクバネウツギが淡い黄色の花を咲かせていた。さらに急登は続く。掘れた急斜面を両手両足で登る。この辺りが一番苦しい場所である。何人かの下山者と道を譲り合ってすれ違った。「山頂まであと30分くらい。まだ急登がありますよ」 「エ〜まだ30分もあるの」 GPSを見ると確かにまだ山頂まで距離がある。

 ここを登り切って、気持ちのいいなだらかなササ尾根歩き。ここから小さなピークを越えて行く。北斜面にはコバイケイソウが真っ白な花を咲かせている。前方にピークが見える。手前が中荒島岳、その向こうが山頂のようだ。山頂をガスが流れる。中荒島岳を越え、マイズルソウの花を足下に、背丈以上のササの中を登っていく。堀割の道にはイワカガミが濃いピンクの花を咲かせている。

 登り切ると前方が開けた。お社が右に見える。広い山頂に到着。山頂は1名の男性がいただけで、ちょうど登山者の入れ替わりの時のようだ。山頂にいた男性から、手前の広い空き地にはアンテナ施設が建っており、近年これが取り壊されたとのこと。

 霞んで遠方の山は全く見えなかったが、南西眼下に大野市の平野が広がっているのが見えた。そう、この山は大野市の平野の最前線に聳える山である。平野から眺めるこの山の姿は大きく美しいに違いない。平野に住む人々のふるさとである。昨年、別山に登った帰りに荒島岳が美しい姿を見せてくれたことを思い出した。今、眼下に見える平野からこの山を眺めたことはないが、きっとすばらしいに違いない。時間が止まったように青く霞む平野を見下ろした。空を飛んでいるような錯覚に陥った。深田久弥が100名山に選定した理由がなんとなく分かったような気がした。

 Aさんに写真を撮ってもらい、「撮りましょうか」と聞くと、まだ連れが登ってくるとのこと。単独じゃ無かった。次々と大勢の登山者が到着し、広い山頂は賑やかになった。100名山の雰囲気が出てきた。実は、後日分かったことであるが、この登山者の中に相互リンクしていただいている「登山と油絵のページ」さんご夫婦がみえた。話しが出来なくて残念。

 ランチは焼きうどんと冷やっこ。ここも虫が多いので蚊取り線香で追い払った。お社は床が抜け落ちていた。Aさんの連れお2人が40分遅れで到着。ランチの後、山談義。同じ職場の仲間で大阪から色々な山に登られている。タイツに短パンが決まっていたASさんもかなり多くの山に登られており、かなりのベテラン。登った山の記録や花の写真などもパソコンで整理してみえ、HPがすぐに作れそうとか。「岐阜県の山にも登ってよ!」とHPをPR。

 帰路、同じ道を3人の後を追って下った。登りで別行動だった2人がコケイランを見落としたとのこと。我々が先に下ることになったため、その場所に目印を付けておくことにして別れた。コケイランのある所に枯れ木で「→」を作っておいた。

 ゲレンデの下りはまたまた暑かった。4名のパーティーに追いつき話しを聞くと、なんと東京から下見にみえたとのこと。7月にバスをチャーターして大勢でこの山に登るそうだ。ここでも100名山の威力に驚いた。足場の悪いゲレンデをだらだらと下りた。つま先が痛い。駐車場手前のコンクリート道では後ろ向きで歩いた。以外と、これが楽である。2時間半弱で駐車場到着。ゲレンデを見上げながら靴を脱いだ。Aさんが下りてきた。コケイランは見つけられなかったそうだ。残念。

 今回、ようやく念願の荒島岳に登ることができた。実に奥の深い山だ。100名山の貫禄は十分。たくさんの花や美しいブナ林も見れた。次に登るときには中出コースから登ってみたい。また、雪のある時期にも登りたい山である。
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