大日ヶ岳
大日ヶ岳の花
大日ヶ岳 (1709m 郡上市) 2004.6.19 曇り 2人

桧峠駐車場(7:10)→ゲレンデ合流(7:24)→ゲレンデ上部・ゴンドラ下り場(8:03)→大岩(8:29)→(小休止8:37-8:44)→水御山(8:48)→鎌ヶ峰(9:18)→大日ヶ岳山頂(9:58-11:31)→鎌ヶ峰(12:12-12:27)→水御山(12:52)→ゲレンデ上部・ゴンドラ下り場(13:23)→桧峠駐車場(14:07)

 前回、銚子ヶ峰へ桧峠を越えたとき、桧峠から大日ヶ岳へコースがあることを思い出した。この休みは梅雨の戻り。天気は期待できない。それなら、花の多い山へ行こう。ふと、桧峠から大日ヶ岳へのコースを思いついた。

 大日ヶ岳へは2年前の秋に登っており、たくさんのリンドウと山頂から見た桧峠コースの峰が印象に残っている。特にこのコースの途中にある鎌ヶ峰の男性的な山容ははっきりと脳裏に焼き付いている。このコースはロングコースであり4時間以上かかると聞いていた。1年前のkuさんのレポートによるとコースタイムは3時間。花はありそうだ。

 2週間前の銚子ヶ峰への道を走る。桧峠に登る途中の「ハートピア四季」のトイレに寄り、桧峠へ。大日ヶ岳登山口の駐車場は桧峠から満天の湯に向かう道の交差点北側の空き地。この交差点を西に直進すれば石徹白に下り、南へ行けば毘沙門岳の登山口に着く。未舗装の空き地には10台ほどの駐車が可能。7時過ぎに着いたが登山者の車は1台もない。

 登山口は駐車場の右端。登山口の表示もある。入り口にチゴユリとホウチャクソウの群落がある。チゴユリの花は終わりかけているが、ホウチャクソウは白い提灯をつり下げていた。杉林の広い道を、杉の落ち葉を踏みながら歩く。無数の蛾がひらひら舞っている。右に小さな社と小川の流れを見ながら平坦な道を進むとやがて周囲はササとミズナラなどの天然林となり、ゆるやかに登っていく。

 すぐにゲレンデに飛び出す。ウイングヒルズスキー場の一番東の狭いゲレンデの縁に登山道がある。このゲレンデ歩きが半端ではない。急登が続く訳ではないが、単調な登りは40分。風もなく汗だくで歩いた。早朝で曇り空ため気温は低く、登る条件は最適だったが、さすが後半は無言。ただひたすら歩く。これで、頭から太陽に照らされれば、ゲレンデ上部でダウンしていたに違いない。

 せめてもの救いは、足下のミヤマナルコユリやアザミ、ニガナ、コナスビの花、霧の中の美しいシラカバ林。食べ頃のワラビがたくさん出ている。昨夜、雨が降ったようで、ゲレンデの草はびっしょりと濡れている。ニガナも花は閉じ、道に覆い被さっている。スパッツなしのズボンは膝下がずぶ濡れ。尾根歩きで乾くだろうと思ったが・・・。

 ガスは次第に濃くなり、視界は50m。左手にゴンドラの鉄塔が3本見え、ゴンドラ終点の大きな建物が現れた。木の階段を息を切らして登り切り、ゲレンデを離れて潅木の中の山道に入る。なお、このゴンドラはこの時期にも運転されており(ネット情報によると9時〜16時)、8分でゲレンデ上部の1350mまで運んでくれる。900円で1時間の短縮。遅出や暑い時期には利用するといいかも。

 タニギキョウの白い花を見ながら斜面を登っていく。アメリカセンダングサと思われる芽がたくさん出ている。確か、蛭ヶ野高原からの道にもアメリカセンダングサがたくさんあった。外来種の恐るべき侵略である。やがて、道はなだらかになりうっそうと繁るブナ林の中を歩く。ブナの新緑と霧の白が混じり合って幻想的な世界を創り出している。ガスの森は美しい。

 ギンリョウソウがブナの落ち葉から顔を覗かせる。時折、上空を吹く風で雨のように水滴が降り注ぐ。心地よい音が森の中に広がる。花の終ったマイヅルソウが続く。やがて道は尾根を真っ直ぐに登っていく。晴れていれば周囲は木々の間から左右の山々が望めるだろう。大岩が林道をふさぐ。左を迂回してようやく明るい尾根に出た。ここから大日ヶ岳まで気持ちのいい稜線歩きが始まる。

 今日はガスで全く展望は無い。その代わり、周囲の花を観察しながら歩く。尾根も急登になってきた。歩き始めて1時間半ほどたったので痩せ尾根で小休止。朝ご飯の残りのおにぎりやパンを食べる。この天気で今日は全く飲み水が減らない。小休止の後、すぐ上でアカモノ発見。赤と白のかわいい花だ。そしてその上でゴゼンタチバナの群落が現れた。ゴゼンタチバナは夏山の高山植物というイメージであるが、この時期にこの山で出会えるとは・・・ちょっとうれしい。

 ツクバネソウを見ながらピークへ。三角点とプレートがある。水後山だ。あいかわらずガスの中、水後山から山草つきの尾根道を下る。草の水滴で、ズボンは乾くどころかますます濡れる。右側は深く切れ落ちており、ガスがなければかなりの高度感があるに違いない。銚子ヶ峰ではまだ花を咲かせていなかったトウダイグサ科の植物が美しい黄緑色のガクを広げていた。水滴がダイヤモンドのように美しく輝く。タカトウダイかハクサンタイゲキか? 

 この辺りからいろいろな花が見られるようになる。この辺りまで登るとマイヅルソウが花を咲かせていた。サラサドウダンの美しいストライプの花に立ち止まる。アザミが頭を下げ、そして、ニッコウキスゲの鮮烈な黄色が夏を告げる。痩せ尾根を登りピークへ。あいかわらず右側は急斜面。南から吹く風でガスが尾根を乗り越えていく。晴れていれば、前方には鎌ヶ峰のすばらしい山容が見られるに違いない。とにかく前方が見えないのでどこを歩いているのか分からない。

 草付きの急坂を登り切ると木柱の立つ鎌ヶ峰に着いた。山名の書かれた板が割れていた。右への道は行き止まりで展望地となっており、断崖のてっぺん。ガスで視界はないが、晴れていれば足がすくむであろう。一息ついて鎌ヶ峰を後にした。一気に急降下するのかと思ったが数分間は下り登りで比較的なだらか。アカモノ、イワカガミ、マイヅルソウ、ゴゼンタチバナの群落が続く。右側の斜面にはニッコウキスゲやコバイケイソウが見られる。

 そして急坂をかなり下る。鞍部まで下って、その後、大日ヶ岳まではいくつかのピークを経て高度を稼いでいく。途中、大岩の左を迂回してちょっと急な登りもあるが、全体的にピークは小さく、登りと下りを繰り返すことから、比較的疲れは少ない。雨に濡れたササユリの蕾が大きくふくらんでいた。

 急な登りが始まった。ササ原の雰囲気から山頂は近いと判断。急登を過ぎ、なだらかなササの道にはゴゼンタチバナに混じってツマトリソウが見られる。空から落ちてきた星のように道ばたで輝いている。

 すぐに大日ヶ岳山頂。2年ぶりの懐かしい場所だ。3時間半はかかると思っていたが2時間48分で到着。山頂には大日如来がお見えになるだけ。ちょっと早く着きすぎたようだ。あいかわらずガスで展望はない。南のピークまで歩いてみた。マイズルソウ、ゴゼンタチバナ、コバイケイソウ、ナナカマドの花が見られた。

 ちょっと早いが昼食にする。ラーメンにパスタ。食事をしていると蛭ヶ野方面から2パーティーの登山者が登ってみえた。展望がないため皆さんがっかり。東ルートの花の状況をお聞きすると、下の方でササユリが見られたそうだ。コーヒータイムの頃、東側から10人以上のパーティーが登って見え、山頂は賑やかになった。ようやく大日ヶ岳山頂の雰囲気が出てきた。晴れるのを期待したが、残念ながらガスが切れることはなかった。

 展望はあきらめ、登ってきた道を戻る。桧峠コースから来た人は我々以外にはいなかった。草の露は行きよりは少なくなったが、まだズボンが濡れるほど。朝方、雨に濡れて花を閉じていたニガナの花が開いている。この尾根のニガナの花色は白く、シロバナハナニガナらしい。鎌ヶ峰手前で行きに見つけたササユリの蕾がさらにふくらみ、まさに今、音をたてて花が開くのではないかと思えるほど。

 鎌ヶ峰に着くと、大日ヶ岳目指す男女3人のパーティーが休憩中。少しガスが切れ、青空が見えたので晴れることを期待して我々も休憩。3人の方も岐阜市から来られたとのこと。毎週、山に登ってみえ、山や花の話しをした。たくさんのジョーカー(カミキリムシの仲間)が飛び交っていた。

 再びガスで青空は見えなくなったため、下山開始。今回はどこで写真を撮っても同じ光景である。水後山手前で単独男性とすれ違った。展望が悪いので引き返そうかと迷ってみえた。水後山から大岩を抜けてブナ林に入った。ブナ林の平坦な道に黒い部分が数箇所ある。雨で落ち葉が流れて、地面が出ていると思い、ストックで突くとストックの跡が残らない。びっくりして、よく見ると、なんとムラサキトビムシの大群。体調1mmの小さな虫が飛び跳ね、黒い固まりが少しづつ動いている。あまり気持ちがいいものではないが、珍しいものを見た。帰って調べてみると、雨上がりなどに大発生することがあるようだ。

 幻想的なブナ林を抜け、ゲレンデに出ると、ゴンドラが動いていた。しかし、ゴンドラで登ってくる人はいない。ゲレンデのガスはすっかり晴れ、前方には毘沙門岳が山頂を雲に隠して裾野を広げている。今頃、大日ヶ岳は晴れているだろうか。ちょっとくやしい思いで振り返るが、山頂は見えない。

 ゲレンデはエゾハルゼミの大合唱大会。二重人格のような泣き方であるが、初夏の昼下がりのBGMに似合う声だ。すぐ近くで鳴くセミを探してみたが見つからなかった。この辺りのニガナもすっかり花を開いている。ここの花は黄色で普通のニガナであった。ゲレンデを一気に下った。杉林の社で無事帰還できたことに手を合わせ、駐車場に戻った。登山口のすぐ近くに満天の湯があるのはうれしい。

 今回の山歩きで、オオヤマレンゲに出会った。希少種のためあえて場所は記述しなかったが、この花が咲く時期に登れば誰でも見つけることができる場所にある。この花を見たとき、初めて見る花であり名前は分からなかったが、真っ白で優雅な姿は和風の上品さを備え、ただならぬ花だと思った。帰って調べ、オオヤマレンゲであることに驚いた。展望はなかったものの、オオヤマレンゲに出会えただけで大満足の山歩きであった。

 このコースは展望があればすばらしいに違いない。天気のいい日に絶対にリベンジしたいコースである。
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