トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) 

百々ヶ峰 (418m 岐阜市) 2009.3.28 晴れ 2人

松尾池下の駐車場(13:25)→登山口(13:29)→石柱のある分岐(13:55)→不動岩(14:15)→稜線(14:32)→百々ヶ峰山頂(14:50-15:25)→南尾根分岐点(15:29)→洞窟(15:50)→車道(16:02)→駐車場(16:06)

 学生時代に松籟団地から松尾池へ仲間と一緒に歩いたことがあった。松籟団地の奥から谷に沿って山に入ると、そこは岡口谷と呼ばれる夏でも涼しい渓谷があり、さらに進むと雰囲気のよい林の中、ゆるやかな峠を越える。そして松尾池に至る。松尾池を訪れるたびに、「今でもあの道は歩けるのだろうか。」と、当時の記憶が蘇る。道があるのならもう一度歩いて、あの日に帰りたいと思った。

 この冬、百々ヶ峰に登ったとき、遊歩道にある案内地図を見て、松籟団地と松尾池の南の谷を結ぶルートが描かれているのに気が付いた。さらにこのルートから百々ヶ峰山頂と西峰を繋ぐ稜線に向って3つのルートがあることが分かった。暖かくなったら、このルートを歩いてみようと、密かに決めた。

 桜前線が一気に北上し、この地方でも開花の便りが聞かれるようになった。午後の空き時間を利用して、懐かしい思い出のコースを検証するために百々ヶ峰を目指す。車はいつものように松尾池下の路肩に駐車。登山者の車が数台停まっており、これから歩き始める登山者も見られた。百々ヶ峰は金華山と並んで市民に親しまれる山である。駐車場の周辺にはサクラの木が多く、既に満開に近い木も見られた。

 小型のザックにパーコレーターとガスストーブを詰め込んで出発。今回は、車道を戻るように南へ歩く。すでに道端のシャガが咲き始めている。ひっそりと咲くタチツボスミレが美しい。駐車場から150m程下ると、ガードレールのある小さな谷を渡る。その手前10mほどのところに、草の中を西に向う山道があった。これを登ろうかと思ったが、ガードレールの南にあるカーブミラーの先からしっかりした道が人工林の中に続いていたので、この道を登ることにした。何気ないこの選択が、下山時の驚きの伏線に繋がることになる・・・。

 人工林の中を右方向へ登っていくと、右からの道と出会う。ガードレール手前の草むらの道と思われる。登山口から数分歩くと堰堤が現れ、その左を巻く。倒木の多い荒れた樹林帯にはショウジョウバカマが可憐な花を咲かせ、木漏れ日の中に浮かび上がる。ショウジョウバカマを見ながら進むと、いつしか明るい天然林となり、ゆるやかな落ち葉の道を歩く。涸れた谷を渡り、広い峠を越える。あの頃と変わらないような気がした。古い記憶の風景の中、峠を越え下りにかかる。道は薄いもののそれなりに踏まれており、赤テープも見られる。この付近にもショウジョウバカマがたくさん見られた。

 軽快に下っていくと左に谷が現れ、さらに谷沿いに下っていくと、山側からの谷に出会う。苔むした堰堤に沿って水の流れを渡る。コンクリート壁に沿って進むと、右に山道が分岐している。石柱があり、「弘霊不動奥之院」の文字が読み取れた。左右に廃屋を見ながら登り、小さな川を渡る。ツバキの花が地面に散らばって美しい。この先で道が二手に分かれている。左は「反射板」、右は「松籟ルート」と書いてある。左はこの冬に登ったルートで、かなりの急登を経て、反射板と西峰の間に出る。今日は右の初めてのルートをたどる。

 左に岩が露出する涸れた谷を見ながら登る。ヒトツバが張り付いた岩も見られる。道はなだらか。明るい天然林の中、見上げれば大岩が前方に見える。春の日差しを浴びてシハイスミレが小さな花を咲かせている。アベマキの分厚いコルク層の幹を見ながら登っていく。左の谷には大岩が見られ、振り向けば金華山が樹間に見える。右に巨大な岩壁が見え始めると、道は直角に右に向きを変えて、岩の屏風に突き当たる。見上げれば天までとどきそうな垂直の岩壁が立ちはだかる。これが不動岩だ。岩壁下部に石窟があり、注連縄が掛けられている。内部には石仏が佇み、古くから信仰の場所として人が行き来したようだ。不動岩の右方向にしっかりした踏み跡があったので、たどってみたが岩壁の途中で道は消えていた。岩壁を見ると錆びたハーケンがある。岩壁の下の踏み跡はロッククライミング愛好家によるもののようだ。

 石窟から岩壁に沿って北へ登る。踏み跡は薄くなるが、色とりどりのテープが道を教えてくれる。すぐに涸れた谷を渡って、急斜面に取り付く。落ち葉の斜面を木々につかまって登る。後方からの金華山に応援されながら、青空目指してどんどん登っていく。赤・青・黄色のテープが続く。岩壁に突き当たり、左へ巻くようにして大岩をやりすごす。かなりくたびれたロープ場を通過。立ち止まって息をつく。振り向けば、登ってきた谷の向こうには、長良川温泉街、長良川を挟んで金華山が美しい姿を見せる。ワイルドな急斜面が続く。
 
 空が近くなり、稜線に出た。標識があり、登ってきた方向には「不動岩を経て松籟団地へ(難路)」と書いてある。山頂方向から下ってきた男性に、我々が登ってきたルートの状況を聞かれた。難路であるが、テープもあり、また石窟があることを話すと、男性はこの道へ。このコースを知る人は少ないようだ。

 ここからはいつものルート。遊歩道の分岐を気にせず、稜線の道を歩く。地面にたくさんのドングリが落ちており、発芽したばかりのものがいくつか見られた。ドングリの実が双葉になったところで、真っ赤な色をしているのが面白い。「展望台まで600m」の標示を通過し、小さなお社で手を合わせる。この辺りから南尾根への分岐を探しながら歩くと、標識は無いが南へ分岐している明瞭な道を見つけた。枯れ木が横たわっているが、主稜線の道を誤らないためのものであろう。帰路はここを下ろう。

 まずは山頂を目指す。5分ほど東へ歩き、新しくできたアンテナ施設の横を通過すると山頂に着いた。展望台からの眺望はいつもすばらしい。長良川と木曽川に挟まれた金華山が岐阜市街地のど真ん中にある光景は、全国に誇れるふるさとの自慢。すぐ右に見える長大な尾根は帰路に下る尾根のようだ。展望台から下りてベンチでコーヒータイム。雲が消え、北に白い御岳山が見え始めた。登山者が次々と登ってくる。百々ヶ峰のファンは多い。1人の男性が山頂東の茂みで写真を撮ってみえた。見てみるとヒカゲツツジが咲いている。蕾の先が赤くなる種類のようだ。こんなところにヒカゲツツジがあることを初めて知った。それにしても、今年の開花は早い。山頂にある案内地図を見ると、南尾根ルートは尾根の途中から西へ下って、登ってきた峠付近に合流している。登りのときに、峠付近で山側への分岐に気が付かなかったようだ。

 登ってきた稜線を引き返し、3〜4分ほど西へ歩いたところから南尾根に入る。標識はない。明るい平坦な尾根から急斜面へ。急緩繰り返して尾根を南進する。道はよく踏まれており、ここを歩く登山者は多いようだ。左手後方には山頂の展望台が小さく見える。ネズミサシやアカマツの尾根を下っていくと、しだいに展望がよくなってきた。ヤマツツジのオレンジ色の花を足元に見ながら、10分ほど下ると、前方の山の向こうに金華山が横たわる。左手は深い谷であり、谷の向こうの尾根は松尾池から山頂へ直登する尾根だ。
 
 展望はさらによくなり、長良川や舟伏山、岩田山、そして左の尖った山は長良川展望の道がある山のようだ。左眼下に松尾池と合掌造りの家が見える。周辺に点在するサクラが美しい。さらに下っていくと、松の木に「立入禁止」のプレートと、ビニールテープが張り巡らしてある。マッタケ採集禁止のプレートかと思ったが、その下で驚くべき光景を目にする。赤茶けた岩盤に丸い穴が開いてトンネルが2つほどできている。水で浸食されたと思われる深い溝もある。どのようにして作られたのであろうか。不思議な造形物をしばし眺めた。
 
 常緑広葉樹の多い斜面を下り、コシダの群落を抜けると再び展望のいい尾根に出る。正面に山水画に描かれているような岩山が見える。大岩の壁の横を抜けると、桜の咲く谷が見下ろせる。眼下の谷は松尾池に続く車道のある谷のようだ。どう考えても案内地図にあった峠付近に出るとは思えない。車道付近に下りるのではないか。下山口を思案しながら下っていく。再び大岩の横を通過して、左方向に向きを変えていくと車道が見えてきた。ササやススキの草むらで分岐が現れた。右へ行けば、今日、登った道に続く。左へ下るとすぐに車道に出た。ガードレール北にある草むらの道だった。まさかこの道に出るとは・・・。登りのときにこの道に入っていれば、この登山口を発見していたのだが・・・。桜の咲く道を車まで戻った。
 
 今日は、知り尽くしていると思っていた百々ヶ峰の再発見の山旅となった。ショウジョウバカマの咲く峠道や不動岩の石窟、ワイルドな急斜面、展望のいい南尾根、不思議な洞窟など見所の多い周回コースである。不動岩から稜線までの急斜面は踏み跡が薄く難路となっており、一般向きではない。南尾根は踏み跡からみて多くの人が歩いていると思われ、知らなかったのは我々だけかもしれない。他のコースと組み合わせればいろいろな歩き方が楽しめそうだ。
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