カシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
八尾山 (1101m 下呂市) 2006.6.4 曇り 3人

 柿坂峠(9:27)→114鉄塔(9:39)→116鉄塔・三角点(10:01)→117鉄塔(10:03)→118鉄塔(10:12)→119鉄塔(10:19-10:29)→120鉄塔(10:44-10:48)→山頂への分岐(10:49)→八尾山山頂(11:05-11:11)→展望地(11:12-12:54)→120鉄塔(13:08)→119鉄塔(13:24-13:38)→118鉄塔(13:46)→117鉄塔(13:58)→116鉄塔(14:01)→115鉄塔への分岐(14:08)→114鉄塔(14:19)→柿坂峠(14:30)

 夜の街で、学生時代の先輩に偶然出会った。先輩は、飛騨出身で、学生当時、「甚五郎」というあだ名で呼ばれていた。駅前の薄暗い居酒屋であれこれと話しをした。酒がめっぽう強いのは昔と変わらない。

 「一度、山に誘ってくれよ。」
 「この日曜日に一緒に行きませんか。」

簡単に話しがまとまった。

 甚五郎さんは根っからの山男。20年以上も前に幾度か一緒に山に出かけたことがある。中房温泉から新穂高まで、雨の表銀座3日間の縦走は今でも鮮明に記憶に残っている。その時、彼は巨大なペンタックス67を担ぎ上げ、槍への稜線上から雲の切れ間を狙って常念にレンズを向けていた。最近は山登りもしていないそうだが、スポーツは続けており、がっちりした山男の体型は昔のままだ。

 登る山はどこでもいいと言うので、他の先輩から勧められた下呂市の八尾山に決めた。登山口近くに温泉施設があることもこの山を選ぶ理由の1つとなった。八尾山は旧馬瀬村と旧下呂町の境にある山で、岐阜100山に選ばれている。この山のレポートは少ないが、今回はよっせーさんと山歩記さんのHPを参考にさせていただいた。あまり登られていない山では、こうした情報が大いに参考になる。

 登山口は柿坂峠にある。事前に峠道の状況を下呂市で確認。「通行止めではないが崩れているところもあり、注意して走行してください」とのこと。7時に自宅を出て、関金山線を北上。甚五郎さんが途中で缶ビールを買うというので、コンビニや酒屋を探しながら走るが、なかなか見つからない。旧金山町から左折して国道256号線へ入る。郡上市に入る前に、岩屋ダムの表示にしたがって右折しダム湖畔を北上。簗谷山への道と同じである。

 ダム湖畔途中から美輝の里の表示に従って、橋を渡らずに直進。白い卯の花を見ながら数キロ走れば美輝の里・道の駅に着く。トイレ休憩をして、ビールを探すがない。小高い場所に建てられた温泉・宿泊施設「スーパー美輝の里」に寄ってようやくゲット。

 山歩記さんのHPの矢印どおり、道の駅の北側の橋を渡って、すぐに右折し、20mほどで左折し、坂を登る。道なりに走れば、鋭角に交差する林道と出会う。右折して柿坂峠を目指す。林道はアスファルト舗装されており、待避場所も比較的多いが、交通量は少なく、路面には落石や枝が散乱しており、障害物を避けながら登った。この冬の雪で、倒木がかなりあったようで、倒れかかった木々が短く切られて、路肩に積まれていた。

 タニウツギやテンナンショウの花を見ながら、うねうねとカーブを登って峠に着いた。峠手前の草付きの空き地には、先着の単独男性の車が1台止まっており、男性はちょうど歩き始めるところであった。空き地には数台駐車可能。峠から北側の山へも道があり、「権現山」の表示。こちらの山も登ってみたいところであるが、またの機会として、南の登山道に入る。

 甚五郎さんはハイキング程度のザックで山男には似合わないのがおかしい。こちらは夏山1泊ほどのザック。登山道入口には114鉄塔の黄色い標識と「八尾山登山道」とマジックで書かれた小さな板切れがあった。

 人工林に入る。小さな起伏を越えながら、左方向へと道が続く。過去、たくさんの人工林を歩いたが、このヒノキ林は見事に手入れされ、こんなに美しい人工林は初めて。ちょうど間伐が行われた直後であり、短く切られた丸太が散乱していた。真っ直ぐに伸びる幹のスリットから朝日が差し込む。足下にホトトギスの葉を見ながら歩くと、テープで仕切られた調査区域のようなところがあり、調整間伐と書かれた標識が掛かっていた。間伐された木々はこのまま放置されるのであろうか。中には、かなり太い木があり、利用されないのはもったいないような気もするが、林道までの搬出経費を考えると・・・50cmの切れ端でも持ち上げることができなかった。

 10分ちょっとで鉄塔のある明るい切り開きに出た。鉄塔から下ってヒノキ林を抜け天然林へ。時折、遅れ咲きのチゴユリが見られた。ササ付きのアカマツ並木を通過。「ここのササは白い」と甚五郎さん。確かに、最初から気になっていたが、背丈の低いササは葉の縁が白く枯れて、遠くから見ると初雪をかぶったようにも見える。

 小さな上り下りを繰り返す。右手に幹に大きな穴のあるブナが現れる。右はヒノキ林、左は天然林の道が続く。初夏を告げるギンリョウソウがいくつも見られた。幹に数本のキズがあるブナが見られた。よっせーさんのレポートに出てくる「クマの爪痕」はこの傷のことであろうか。そんなことを思っていると、突然の悲鳴。小ピークで突然前方からクマが・・・と思ったら、戻ってくる先ほどの単独男性とバッタリ。鉄塔にハチがたくさん飛んでいて近寄れなかったそうだ。「鉄塔が山頂では」と言われたが、そんなはずは無いと説明。

 男性は我々の後をついてくることになった。直ぐに116番鉄塔に出た。スズメバチの大群でもいるのかと思ったが、飛び回っていた数匹のクマバチ。左に踏み込んだ所に三角点があった。1083mの三角点であり、これがあったことで男性は山頂と間違えたようだ。男性には先に行ってもらう。115番鉄塔は登山道から外れており、114番の次はこの116番となる。ここは尾根伝いに切り開かれており、後方の展望もよいが、霞んでいて遠くの山は見えない。

 直ぐ先に117番鉄塔が見える。鉄塔の間隔は等間隔ではない。ササの道を117番鉄塔まで下る。ササユリの蕾が膨らみ始めていた。ここからさらに下って、ササの尾根を歩く。ブナの巨木がすばらしく、見上げると上空で枝を大きく広げている。透き通るような黄緑色のベールから柔らかな光が差し込んでいた。地面にはブナの実がたくさん落ちていた。昨年は豊作の年だ。双葉を展開し始めたブナの赤ちゃんがいくつか見られた。

 今度は、ハートをつぶしたような形をした栗の皮のような実がたくさん落ちている。大きな松かさ状の実もある。見上げるとモミの木のようだ。りっぱなアセビの木も多い。木々を観察しながら歩き、118番鉄塔を通過。さらに下る。数分で119番鉄塔へ。切り開かれてはいるが、展望はない。ここでもクマバチがテリトリーを守っている。ここで10分ほど小休止。

 ここから、また下る。先が見えないほど下っている。帰りの登りのことを考えると気が重い。あいかわらず、右は人工林、左は天然林である。鉄塔から5分ほどで鞍部へ。ここからは上り坂。登り始めたところで、前方から先ほどの男性が下ってきた。聞けば、120番鉄塔まで行き、引き返したとのこと。峠まで戻って、反対側の権現山に登るという。

 スミレを見ながら根の張る急登をこなす。甚五郎さんは、軽快な足取りで先頭をぐんぐん登っていく。ブランクがあるとはいえ、さすが山男。昔の姿が甦る。登りきってなだらかな道を歩くと、展望の良いササの尾根に出た。東側が開けているが、霞んで手前の山が見える程度。小さなピークを超えると前方に120番鉄塔がある。その左には丸い山が重なって見える。僅かに見える奥の山が八尾山山頂のようだ。

 120番鉄塔から後方を見ると、今歩いてきた鉄塔が連なって見える。116鉄塔のあった1083mピークから大きく下ってきたことがわかる。帰路、あれを登り返すことになる。甚五郎さんが、ホウの木で風車を作ってくれた。風車を回しながら、鉄塔を後に、50mほど下ると左へ道が分岐している。分岐点の木に「八尾山1101m」の小さな板が結び付けてある。右側には121番鉄塔への黄色い標識がある。

 ここから、左の道に入り登りにかかる。ササはきれいに刈り払われており、道は明瞭。急な斜面を登る。途中、黄色いキノコがかたまって生えていた。「これは食べられる」と、甚五郎さん。匂いをかいでみると、まさにキノコという香りがしたが、キノコは分からない。

 登りきると、赤ペンキが塗られた三角点のような石柱があった。ここからなだらかな道を歩くと八尾山と書かれた黄色い大きな表示板。山頂である。表示が無ければ通過してしまいそうなところだ。小さなプレートもあり、測量の竿が置かれていた。展望は全くない。80m先に展望地があると情報を得ていたので、もう少し歩くと、岩場があり、登ってみると、八尾山と書かれた石柱と平たい岩で築かれた小さな岩屋、その中に1体の石像が祀られていた。岩屋の横にはスチールのボックスがあり、記帳ノートが入っていた。ベニドウダンとアブラツツジが紅白の花を咲かせている。

 左側が開け、鉄塔のある山が見えた。「今、歩いてきた山だ」とらくえぬ。「これは東側の山だ」と2人。よく見ると120番鉄塔から眺めた山だ。人の感覚はあいまい。南へ下っているとの先入観から、左は東と決め付けていたのだが、八尾山山頂あたりから、尾根は東に向きを変えており、この地点で左側は、北方向になっている。あんなに歩いてきたとは思えないほど鉄塔群が遠くに見える。

 ランチは、石柱のある岩の上で行うことにした。ビールで乾杯。つまみは焼肉。ランチはキムチうどん。誰も登ってこない緑の木陰で、おしゃべりをしながらゆっくりとランチタイム。いつものようにコーヒー付きのフルコース。甚五郎さんもこういうランチ付きの山歩きは初めてらしい。この時期に多いまとわりつく虫もいなかった。岩屋の裏へ回り込んで、先の尾根に踏み込んでみると、低いササに覆われ、道は無かった。

 ランチの後、今来た道を戻る。120番鉄塔から一気に下って、1083mピークへの登り返しが始まる。一歩一歩登って、119鉄塔で休息。冷えたトマトが美味しい。帰路、登りを覚悟していただけに、以外に簡単に116番鉄塔に着いた。山頂から峠までは1時間半ほどで戻ることができた。

 峠から下って、スーパー美輝の里の温泉で汗を流した。美輝の里のHPをコピーして持参したので割引になった。登山口の近くに温泉施設があるのはうれしい。露天風呂から柿坂峠方向がよく見えた。八尾山山頂は手前の山に隠されて見えないが、峠付近の稜線に1つだけ鉄塔が望めた。今日、歩いた何番目かの鉄塔であろう。

 八尾山は登ったという気分にならない山である。切越峠から二ツ森山へ歩く感じによく似ている。天然林も多く、これからはササユリにも出会える。秋にはシロモジなどの紅葉もすばらしいにちがいない。ブナやミズナラの巨木を見上げながらの静かな山旅はいいものである。

 美輝の里に「御嶽山十二景」というポスターが張ってあった。下呂市内各地の山から見た御嶽山の写真が月ごとに掲載してある。12のうち、8つは訪れたことがある場所だった。四季を通じて、いろいろな場所から眺める御嶽山はその姿を変え、実に美しい。番外編として3枚の写真があり、その1つが八尾山であった。なぜ、番外編になっているのか分からなかったが、八尾山からも勇壮な御嶽山を望むことができる。見晴らしのいい時期に登りたい山でもある。
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