トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平21業使、第478号) 

糸瀬山 (1867m 長野県) 2010.10.17 曇り・晴れ 2人

登山口(8:43)→松原よこて(9:21)→胸突八丁(9:40)→丸屋の鳥屋(9:47)→まむし坂(10:08)→いちょう谷(10:21)→青なぎ(11:23)→糸瀬山山頂(11:45-13:15)→胸突八丁(14:30)→1091mピーク(14:49)→登山口(15:11)

 長野県の木曽にある南木曽岳・風越山・糸瀬山は木曽三山と呼ばれている。南木曽岳と風越山は登っており、残る未登頂峰は糸瀬山。紅葉にはまだ早いが、この休みに取り残した糸瀬山に登ることにした。風越山に登った帰りに糸瀬山の登山口の下見をしておいたので、アプローチの問題はない。今年は、長野県方面の山によく登った。網掛山、南沢山、尾高山の3山に登ったが、いずれも展望に恵まれなかった。4度目のこの糸瀬山も展望は期待していなかった・・・。

 中津川ICで中央道を下り、国道19号線を北上する。道の駅「大桑」のトイレに寄って、JR須原駅を通過。須原駅から1kmほど走った国道右に糸瀬山登山口の標示と細い道が分岐している。対向車に注意して右折し、JRの高架下を潜り、折り返して山裾を北上。分岐点が現れるが直進は「行き止まり」の標示があり、道なりに進む。細い山道で草が道へ飛び出しているが、舗装道路で急な上り坂もなく普通車でも問題なく走れる。しばらく走ると太い導水管の脇を通過。カーブを登ると右手に草付きの広い空き地がある。ここに駐車してもいいが、登山口にもスペースがあるのでさらに進むとすぐに登山口の標示が現れ、林道のふくらみに1台の乗用車が停まっていた。このふくらみで切り返して車の向きを変え、Uターンの邪魔にならない位置に車を停めた。

 林道脇の青色の箱に登山届けを入れて、山側の鉄梯子に取り付く。入口には「カイバツ870m 頂上へ180分」の標示。標高差1000mの山旅が始まる。「ごぶじでおかえり」の標示板に見送られて人工林に入る。人工林の木々の全てにはシカやクマの皮はぎを防止するためのテープが巻かれており、異様な空間が広がる。すぐに人工林を抜け、前方の稜線に向って登る。今年はキノコの豊作年。落ち葉の中にクサウラベニタケやアンズタケなどのキノコが見られる。寒かったので山シャツを着て手袋をつけたが、10分ほどの登りで汗が噴出した。明るい尾根にでてシャツを脱ぐ。ヒノキの幼木の向こうに糸瀬山から派生する尾根が見える。

 右手にヒノキの幼木を見ながら左山で水平に歩く。遠くの山々や下界の集落が見える。ノコンギクやアキノキリンソウを見ながら、潅木のうるさい道を歩く。キノコがたくさん放置されている。キノコ狩りで食用にならないものが棄てられているようだ。アカマツ林を抜け糸瀬左の標示に従って人工林との境を登る。チゴユリの葉が黄色く色づいている。糸瀬山右の標示を見ながら天然林の中、落ち葉を踏んで尾根を乗り換え、稜線に出て左へ登る。すぐに次の稜線に出ると「松原よこて」と書かれた錆びたトタン板のプレートがあった。登山コースは右であり、左へ行けば1091mピークの三角点がある。帰路、時間があれば三角点に寄ることにして、尾根を右へ。やや下ってなだらかな道となる。二次林の美しい天然林は緑のトンネル。シロモジが多く紅葉すれば黄色いトンネルになるだろう。
 
 道は明瞭で、赤テープも続いている。再びテープの巻かれた人工林を見ながら歩くと、樹林帯を抜けて明るいススキが茂る展望地に出た。足元には秋の花が賑やかだ。ススキを分けながら歩くとすぐに樹林帯に入る。尾根道となり、樹間から御嶽山が見えた。今日は展望が期待できそうだ。短い急登をこなし、「このロープは危険箇所の標示です」と書かれたロープ場を通過。ブナの巨木も見られる。
 
 道を覆う潅木をかき分けて尾根に出る。ロープ場が現れ急な古い丸木階段のある斜面を登る。ここが胸突八丁と呼ばれる急斜面。落下したクリのイガを踏みながら一歩一歩登っていく。ササが現れ胸突八丁を登り切ると背の低いササに覆われた尾根に出た。高木のミズナラが黄色くなり始めて美しい空間が広がる。
 
 「丸屋の鳥屋」と書かれたブリキが現れた。1時間ほど歩いたので休憩場所を探しながら歩くとササが刈り取られた尾根となったのでここで休憩。いつものようにパンを食べてシャリバテ防止。猛毒の真っ白なキノコのドクツルタケやイグチの仲間のキノコが見られた。左の谷から猟銃の発砲音が頻繁に聞こえる。狩猟時期にはちょっと早い気がするが・・・この音は気持がいいものではない。5分ほど休んで出発。

 ササの尾根歩きが続く。右手に木々の間から中央アルプスの稜線が見え始めたが山の名前は分からない。まむし坂の標示を見てロープ付きの急な尾根を登る。この急坂がまむし坂であろうか。左は切れ落ちた谷で、ロープは転落防止のために設置されたものであろう。紅葉したヤマブドウの葉が美しい。ヤセ尾根はザレた道で滑らないようにゆっくり登っていく。岩や倒木を乗り越えてひたすら登る。ミズナラの枯れ木に生える真っ白なヤマブシタケを見つけた。栽培されたヤマブシタケは見たことはあるが、自生しているものは始めて見た。美しいキノコである。

 左に崩壊したようなイチョウ谷を見て、急斜面を右へトラバースしていく。崩壊しかけたところもある。赤テープを追って左山で急斜面の登りが続く。アキレス腱が悲鳴を上げている。ブリキにドリルで穴を開けて「イトセ」と書かれた標示が頻繁に現れる。尾根に出てゆるやかな道となり、炭焼き跡と思われる石積みを通過。黄色く紅葉した木々が増えてくる。この辺りも美しい天然林である。ササに覆われているが道は明瞭。ササに隠れた株や根につまずかないように歩く。ツガやシラビソなどの針葉樹が増えてくる。ササの背が次第に高くなり、道はなだらかになる。
 
 1時間以上歩いたので、広々とした樹海の中で休息。大きな倒木にスギヒラタケがたくさん生えている。シラカバの林に紅葉のカエデが混在して美しい。GPSを見ると標高1600mを越えている。ここでもパンを食べた。冷んやりとした静粛のササの湖に身を沈めていると、急な登りの疲れも癒される。湖の底から周囲の木々を見回して深呼吸。残りは1/3。ザックを背負って出発。
 
 広い尾根を歩くとササの丈は胸辺りなったが、掻き分けるほどの密度はない。前方にすらりと伸びたシラカバの美しい林が現れた。色づき始めているが、既にかなりの葉が散っている。後方に見えるなだらかな稜線は安平路山や摺古木山のようだ。ササの中、適度な傾斜を登っていく。

 前方が明るくなり、右側に崩壊した崖が現れた。青ナギと呼ばれる場所で、この先しばらく崩壊地の縁を通過する。転落防止のロープに沿って展望地に出て息を呑む。赤茶けた荒々しい中央アルプス南部の稜線が目の前に広がった。今年は展望に恵まれた山歩きが少なかっただけに、この大パノラマには感動。左から空木岳、南駒ヶ岳、仙涯嶺、越百山と続く。さらに登ると南の展望が得られ安平路山や摺古木山が見える。そしてその南には恵那山が恵那山らしい山容で鎮座している。文句なしの眺望をしばらく眺めた。

 「カイバツ1800米 頂上へ十五分」の標示を見て先を急ぐ。崖縁を離れてササの道を登ると再び崩壊地上部に出た。花崗岩が風化した無毛の真っ白な斜面がまっ逆さまに谷に落ちており、その先にエメラルドグリーンに輝くハート型の伊奈川ダム湖が見えた。その湖面は南海のサンゴ礁を思わせるような美しい色で、まさに中央アルプスの宝物。さらにササ道を歩くとダメ押しのようにすばらしい展望地があった。中央アルプスをバックに記念写真が撮れるように「イトセ」のプレートが木に掛かっている。

 展望地を後にゆるやかに登っていくと「しらび平」の標示を通過。背丈ほどになったササの道を歩くと大岩が現れた。岩の間を抜けて倒木を潜ると「ようこそ糸瀬山へ」の標示。山頂到着。ちょうど3時間かかった。先行者があると思っていたが山頂には誰もいない。山頂はシラビソなどの針葉樹林帯で展望はない。イワカカガミの群落が見られた。三角点を探す。岩の上にあると分かっていたので、いくつもの大岩の間を歩き、踏み跡を辿って1つの岩に上がってみると三角点があった。

 すぐ北側に大きな岩と梯子が見えた。これがのろし岩のようだ。のろし岩の下まで歩くと小さなお社があり手を合わせる。アルミ梯子を見上げると先端からクサリ梯子となって岩の上へ続いている。「登って事故を起こしても一切の責任は負いません」と書かれた健友会の看板がある。クサリ梯子の手前まで登ってみたが、とても岩の上まで登れるものではない。
 
 昼食場所を探すと東側に開けた場所があり、展望地となっている。ここからはさらに北側の展望が得られ、三沢岳のピラミッドや木曽駒ヶ岳が望めた。昨年、風越山から見た景色を思い出す。三沢岳の稜線の先に風越山がある。展望を楽しみながら、この岩の上で昼食にする。メニューはおでんとラーメン。熱いラーメンの美味しい季節になった。足元のドウダンツツジが真っ赤に紅葉し、シャクナゲの木も見られた。コーヒーを飲みながら中央アルプスを満足するまで眺め、登ってきた道を下山。

 帰路、逆光の中、ササの道を下る。青ナギ上部は転落しないように慎重に下った。シラカバの林の向こうに紫色の恵那山がモヤの中に浮かんでいる。急斜面をぐんぐん下る。ササが銀色に輝き、頭上を覆うミズナラが黄緑色のやさしい空間を作る。周囲に見とれて、ササの下にある木の根につまずいてそれぞれ転倒。ササに覆われた道は要注意。

 胸突八丁を下る途中で北側に遠くの山が望めた。御嶽山だと思い、木々の間に踏み込んでみると乗鞍だった。さらに北には穂高が頭を出している。展望を期待して胸突八丁を下った鞍部から直進してすぐ先の小ピークに登ってみたが展望は無かった。引き返して下り、草の茂った展望地から左前方に南木曽岳が見えるのを確認。さらに下って松原よこてから直進して1091mピークまで登ってみた。樹林帯の静かな山頂には落葉の中にひっそりと三角点があった。分岐点に戻り登ってきた道を下り、人工林を抜けて登山口に戻った。我々の車だけが残っており、誰にも会わない山旅となった。
 
 糸瀬山は予想したよりもいい山だった。中央アルプスの大パノラマはもちろん、ミズナラやシラカバの美しい天然林とササの尾根はこの山の宝物。そして、登ったという充実感を味わうことができる山でもある。糸瀬山のこのコースはほとんどが尾根歩きで谷を横断するところもなく靴が全く汚れなかった。ササの中の歩きが多いが踏み跡は明瞭。松原よこてまでに尾根を乗り換えるところがあるが、案内に従えば迷うことは無い。ススキや潅木がうるさいところや、身体を埋めるほどのササを分けるところがあり、長袖は必携。トラバース道や青ナギ付近は転落に注意。下山時にはササで見えない木の根などにつまずきやすいので慎重に。なお、帰路、大桑の道の駅に寄ったときにシャツの上を歩く大きなマダニを見つけた。ササヤブを歩くので夏にはマダニにも注意を。
 
 下山後、久しぶりに腿の筋肉痛に悩まされ、心地よい痛みを感じるたびに、糸瀬山のササ尾根が思い出された。
★糸瀬山からの展望


★糸瀬山の植物



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