★馬狩の展望



トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平21業使、第478号)

馬狩展望台【トヨタ白川郷自然学校】 (約750m 白川村) 2010.1.17 晴れ・曇り 2人

トヨタ白川郷自然学校(10:26)→馬狩谷(10:40)→馬狩展望台(11:17-12:22)→トヨタ白川郷自然学校(12:55)

 ガラス越しに墨絵のような世界が広がっていた。スローモションのように雪のかけらがゆっくりと舞い、遠くの雪をかぶった純白の山は雪雲の中へ溶け込むように消えている。馬狩の冬は大昔からこのモノトーンの世界だったに違いない。40年ほど前に廃村となったこの地には、今、トヨタ白川郷自然学校が建つ。

 ワカンを手にビジターホールへ急ぐ。8時半から始まるネイチャーガイドに参加する宿泊者が集まっていた。物言わぬ大自然の通訳者「インタプリター」のあいさつで1時間のネイチャーガイドがスタート。家族連れも多く、大人と子供のグループに分かれて実習室で簡易スノーシューやかんじきについて説明を受けた後、野外で装着。トレースをたどって林へ向かう。

 雪の結晶が降る中、インタプリターからリスの足跡やカラマツの実の食べカスなどの説明を聞きながら、雪の森を歩く。雪を乗せたカラマツの木を伝うリスが見えた。ゆっくりと自然を観察すれば、日頃見えないものも見えてくる。思い思いに針葉樹林を歩いて、樹林帯の中にある一本のブナの木の周りに集まって、ブナの解説を聞く。その後、人工林からクルミ林に移動。
 
 雪が降る中で、クルミの畑にどれほど雪が積もっているのかを確認するために、インタプリターが雪崩で埋まった人を探し出すための折りたたみポール「ゾンデ」を伸ばして雪に突き刺す。3m以上あるゾンデはあっという間に雪の中に埋まってしまった。こんな大雪の上に立っているのは生まれて初めてである。ユニークなクルミの落葉跡を観察して1時間のネーチャーガイド終了。自然との共生、地域との共生をテーマにした共生シナリオを提供するトヨタ白川郷自然学校はこれからの新たな自然体験型施設のモデルになるであろう。

 この大雪をもう少し楽しむことにする。自然学校にはいくつかの散策路があり、その1つに「丘の小径」と呼ばれる遊歩道がある。自然学校の東に連なる低山には鉄塔が続き、馬狩隧道の北に立つ鉄塔が馬狩展望台である。自然学校からは目の前に見え、標高差は70mほど。雪が無ければ15分ほどで登れそうな距離。しかし、3mを超える雪の中では相当の時間がかかりそうだ。どこまで歩けるか・・・。

 車まで戻って、スノーシューを履き、ザックを背負った。先ほど、ネイチャーガイドで一緒だった男女3人が一足早くスノーシューで出発。男性1人は外国人だった。散策路を地図で確認。自然学校の東を北に向かう飯島林道の途中から散策路が分岐しているので、飯島林道へ向かう。除雪された飯島林道の両脇は3mの雪の壁で、林道から外へ出られない。林道を少し歩くと除雪はそこまで。行き止まりの垂直に近い雪壁にスノーシューの痕跡。先行の3人もここを登ったようだ。

 壁をよじ登ると、広い雪原が広がり、東へ一本のトレースが続いていた。もちろん遊歩道の痕跡はない。3人のトレースは前方のなだらかなどんぐりの丘へと続いている。トレースの深さは膝ほどあり、トレースがなければスノーシューでもかなりのラッセルを強いられるにちがいない。正面の小高い稜線には馬狩展望台の鉄塔が青空に映える。左に「丘のあずまや」の屋根だけが雪の上に出ていた。トレースは右へと向きを変え、どんぐりの丘の頂上を横断している。
 
 正面に太陽を見ながらどんぐりの丘を越えると、トレースの先に3人の姿が見えた。ちょうど馬狩谷を渡って斜面に取り付いたところ。ラッセルがきつそうだ。馬狩谷に向けて一気に下る。この川が渡れるか心配だったので自然学校のスタッフに事前に確認したところ小さい川なので渡れると教えてもらった。そのとおり。この大雪で川はただの窪みとなっている。谷を渡って、斜面を登ると明らかに散策路と分かるテラスがあった。地図を見ると散策路は大きくS字を描いて展望台に続く。

 休息する3人に追いついて、ラッセルを交代。スノーシューでも30〜40cm沈み込む。先頭を2人で交代しながらヘアピンカーブを折り返す。息が切れる。汗が噴き出す。ジャケットを脱いで、水を飲んだ。その間に外人さんが先頭に。その後を追う。再びバトンタッチして先頭へ。左の稜線が次第に下がってきた。木の枝を避けながら馬狩隋道上部まで歩き、木々で道が塞がれていたので、数メートルの急斜面を登る。急斜面になると、膝の上まで沈む。木々を避けながらやっとのことで尾根に出た。息が静まるまで小休止。

 ここからは尾根歩き。先頭を3人に譲る。東側の展望は今ひとつ。稜線の落葉樹の幹には雪が付着しており、陽が当たっても雪は落ちてこない。気温は氷点下。僅かに下って登り返す。ミズナラの木立の中、緩やかな稜線歩きはすばらしい。3人に追いつき登りにかかる。前方が開けて鉄塔が見えてきた。GPSでこの鉄塔が馬狩展望台であることを確認。

 鉄塔の立つ丘に出ると、すさまじい音が鉄塔から出ている。高圧線や碍子に雪が付着してコロナ放電が起きている。それにしても気味が悪い。地上高が3mは高くなっていることから、頭上間近を高圧線が走っており、高圧線から人へスパークするのではないかとさえ思えるほどの音がしている。鉄塔のアームには巨大な雪の塊が乗っている。なるべく鉄塔に近づかないようにして稜線の西側に立つと、自然学校のある馬狩地区が見下ろせた。歩いてきたトレースも見える。正面に見えるはずの三方岩岳は雪雲の中に消えている。山の上部は木々が雪の下に埋もれて純白になって、空と山の境目が見えない。3人パーティと交互に写真を撮り合った。大阪からみえたそうで、外人さんはカナダ出身だった。

 ここまで50分かかった。この先の鉄塔を目指すには相当の時間がかかりそうだし、これ以上の展望も得られそうにないので、ここで昼食にすることにした。持ってきたスコップでいつものようにベンチを作った。メニューはラーメン。3人はしばらくして、鉄塔から急斜面を下る人、今来た道を戻る人、それぞれに下山して行かれた。雪の上で食べるラーメンは最高にうまい。ラーメンに続いてコーヒーを沸かした。いつしか青空は消え、次第に山が見えなくなってきた。それでも、さほど寒くない。雪に埋まる馬狩を眺めながら熱いコーヒーを飲んだ。

 後片付けをして、鉄塔の北まで歩き、電線が写らないところで再び写真を撮っていると、轟音が響いた。鉄塔から雪の塊が落下した音だった。我々が歩いてきたトレースの上に雪が落ちており、3分遅かったら雪塊の直撃を受けていたかと思うと恐ろしい。

 帰路は、尾根の西縁を下り途中から眼下の遊歩道に向かって真っ逆さまに急降下。急傾斜ではあが、深い雪がブレーキとなって気持ちよく下る。遊歩道手前は垂直に近い斜面で、シリセードしてみるが滑るというよりは落ちるという状態だった。遊歩道を横断してさらにショートカット。雪を蹴散らしながら一番下の遊歩道に下り立った。トレースが南の車道に向かっており、3人は馬狩隋道付近に下りたようだ。帰路は馬狩谷を渡って、車道の並木道沿いに自然学校を目指した。さすがに2人だけでのラッセルは疲れる。どんぐりの丘を迂回して飯島林道に戻った。
 
 2時間半の短時間の山旅だったが、雪の時期にこの地を訪れたいという願いがかない、この豪雪の地のスノーシュウイングはすばらしい体験だった。大窪池や飯島林道の奥を歩くのも面白そうだ。大窪池方面は雪崩の危険箇所があるとのことで要注意。それにしても、雪の馬狩は美しい。



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