乗鞍岳の花を見る
乗鞍岳のパノラマと地図を見る
乗鞍岳 (3026m 高山市) 2005.7.24 晴れ 2人

畳平駐車場(6:58)→肩の小屋(7:27)→剣が峰(8:18-8:42)→肩の小屋(9:23)→畳平駐車場(10:04-10:15)→平湯・十石山登山口(10:48)→平湯8.6km地点(11:11)→ピーク取付き(11:23)→硫黄山直下<昼食>(11:40-12:14)→崩壊地・ロープ場(12:52)→平湯6.3km・神社(13:09-13:17)→平湯5.2km・水場(13:52)→白猿が池(14:27)→平湯3km・ゲレンデ上部(14:48-15:07)→平湯1km・道路合流(16:00-16:05)→平湯バスターミナル(16:17)

 3年前の6月。マイカー規制になる前に乗鞍岳に登った。悪天候でガスが渦巻く中、大きな雪渓を横切って剣ヶ峰に立った。全く展望が無かった。このリベンジはどこかで思っていたところ、今月初めに「乗鞍に新登山道」の記事が新聞に掲載された。桔梗ヶ原から平湯温泉郷までの9.6kmが整備されたとの内容。平湯大滝に下る旧道は廃道となっており、新たな道は平湯温泉観光協会などが3年前から新道開削を計画し、環境省認可を得たことから、未整備区間の整備や案内用標柱が設置された。新道は尾根歩きを中心に平湯スキー場へ抜けるらしい。

 いろいろ調べてみたが、詳細な地図や登山レポートはない。新聞の簡易なルート図から推定して地図におおまかな登山道をトレースした。半端ではないロングコースである。これとGPSを組み合わせれば道を誤ることは無いと確信し、計画を立てた。

 平湯で前夜泊して朝4時に起きた。曇り空で笠ヶ岳などは全く見えない。今回も山頂はガスの中のようだ。しかし、花は見られるだろう。平湯から乗鞍行きのバスは1時間に1本ある。5時45分発を予定し、アカンダナ駐車場のゲートを5時に潜った。平湯の駐車場はアカンダナ駐車場との固定観念があったが、後に考えてみると、今回のルートの終点は平湯スキー場。帰路の時間を短縮するなら、スキー場の駐車場に車を停めて、朝、平湯まで歩いてバスに乗った方が効率的である。しかし、このルートの起点は平湯のバスターミナル。山歩きの最後を締めくくるゴールのテープを切る場所は平湯のバスターミナルがふさわしい。感動も一段と大きいことを登り終えて肌で感じた。

 乗鞍へのバスは平湯で乗り換えることなく、アカンダナ駐車場から山頂まで直行する。この時期、1番バスは午前3時25分のご来光ツアーバス。我々は5時40分アカンダナ駐車場発のバスに乗った。乗客は6人。平湯で1人を拾い、一旦朴の木平スキー場まで下る。ここで20人ほどが乗車。乗鞍のバス往復であれば、駐車場が無料の朴の木での乗車が便利だ。

 バスは国道を引き返し、平湯トンネル手前から乗鞍スカイラインに入る。車内では乗鞍スカイラインの解説や山でのマナーをビデオで流してくれる。平湯峠を過ぎ、次第にガスが漂い始めた。がっかり気分と睡眠不足が手伝ってウトウト。「猫岳を通過」のアナウンスに目を開けて驚いた。真っ青な空にきらめく太陽。真っ白な雲海に槍・穂高が美しいシルエットをつくっている。リベンジできそうだ。

 桔梗ヶ原のアナウンスに、新登山道の入口を探すが、それらしき場所は見つからない。前方にタクシーが停車しており、乗客が植物の写真を撮っていた。何を撮っていたのか分からなかったが、後に、我々もここで写真を撮ることになる・・・。

 畳平はマイカーがいないのでひっそりしている。富士見岳の下を登っていく大勢の登山者が見られた。晴天の畳平は気持ちがいい。帰路、新道のコースを確認しようとバスターミナルの案内所に寄ったが早朝で無人。駐車場のパトロール員に桔梗ヶ原の新道入口を尋ねると、ここから1kmほど下った右側の待避所に表示があると教えていただいた。御礼を言うと「このコースはお薦めですよ。時間に余裕をもって行ってください。」と笑顔。

 さて、まずは剣ヶ峰を目指す。鶴ヶ池の縁を通り、富士見岳の裾を回り込む大回りのコースを選んだ。ミツバオウレンのかわいい花が所々に見られる。右下にハクサンイチゲのお花畑を見ながら、コロナ観測所への分岐点を通過して、今度は左下にスキーのできる大きな雪渓を見下ろしながらゆるやかに林道を下って肩の小屋へ。前方には剣ヶ峰が朝日に輝いて実に美しい。

 小屋の周辺は大勢の登山者で賑わっていた。休むことなく、剣が峰の登りにかかる。下山者と挨拶をかわしながら、足場の悪い道を登っていく。3年前の6月、この斜面には巨大な雪渓ができていたことが思い出される。振り向けば肩の小屋が小さい。湧き上がり始めた雲の隙間から槍・穂高が美しい。ひと汗かいてお鉢である稜線まで登り詰めると紺碧の権現池が目の前に現れた。赤茶けた稜線を蚕玉岳を右に通過し、一登りで剣ヶ峰に立った。

 山頂の神社は手前が岐阜県、回り込めば長野県の神社である。雲が湧き上がり、時折、山頂をガスが包む。それでも展望はよく、目の前の大日岳の向こうには大きな御嶽山が見え隠れしていた。全く展望は無いだろうと思っていただけに感動である。記念写真を撮って、何人かの登山者に混じって一休み。目の前の石に青緑に輝く美しい蝶が羽を広げている。オオミドリシジミ? こんな3000mの場所にいるとは思えないが・・・それにしてもゼフィルスの仲間の羽の色は実に美しい。

 十分に展望を楽しんだら剣ヶ峰の山頂を後にした。次から次へと登ってくる登山者と挨拶を交わしながら、登ってきた道を引き返した。富士見岳近くの道路から左手にはたくさんのコマクサが美しい花を咲かせていた。写真を撮るのには遠すぎて残念・・・この後、たくさんのコマクサに山ほど出会うとは想像もできなかった・・・。

 畳平駐車場へはお花畑を横断した。コイワカガミ、ミヤマキンバイ、ハクサンイチゲ、クロユリなどが満開で大勢の写真を撮る観光客で賑わっていた。バスターミナルに着いて冷たいゼリーで一息。さて、今回のここまでの山歩きはおまけ。本番は平湯温泉までのロングコースを下ることが目的である。

 まずは、バスで上ってきたスカイラインを下る。歩道がある訳でもなく、右側路肩のラインを歩く。車道の石垣の上にはたくさんの高山植物が美しい花を咲かせている。なんとコマクサがあるではないか。行きにタクシーが停まっていたのはこのコマクサの写真を撮るためだったようだ。イワギキョウやアカバナなどお花畑には無かった花がいくつか見られた。

 スカイラインを次々とバスが上がってくる。その黒煙の排気ガスに息を止めながら歩く。これでは高山植物や雷鳥にも影響があるだろう。マイカー規制の効果は大きいに違いない。路肩の待避所に登山道入り口がないか注意しながら歩いた。路肩にはたくさんのウメバチソウがまるで花壇のように並んで咲いている。左側のコバイケイソウも美しい。前方に1名の男性が歩いていたので、おそらく我々と同じルートを下るのだろう。

 駐車場から1kmという話であったが、なかなか下山口が現れない。GPSで確認するとまだ先のようだ。桔梗ヶ原の表示を通過し、花の写真を撮っている男性を追い抜いて、駐車場から30分以上、2km近く歩いたところに、ようやく茶色の木柱が現れた。平湯・十石山登山口と書かれている。平湯まで9.6kmの表示。GPSで間違いないことを確認。ワイヤーのガードレールに切れ目がなく、表示がなければ登山道とは気が付かない。追いついた男性もこのルートは初めてであり、おそらくここに間違いないということで、先に降りていかれた。我々も後に続く。

 急な斜面を降りて砂礫の崩壊地を横断。チングルマ、ミヤマキンバイ、ハクサンイチゲ、アオノツガザクラ、ミネズオウ、コバイケイソウ、キバナコマノツメなどが見られた。大きな雪渓の上をガスが流れる。キバナシャクナゲやハイマツ帯の中をジグザクに急降下していく。ガスで遠くまでは望めないが、眼下にあるピークの右を抜けて硫黄岳に続く稜線に登山道が走っているのが良く分かる。正面の大きな山は四ッ岳のようだ。道はガレて、滑りやすいのでゆっくり下る。

 15分弱下ってようやく鞍部に着いた。左にピーク、右に谷。後方には今下りてきた桔梗ヶ原の大きな壁。前方には登り返しの尾根筋が延びる。コマクサの群落に歓声。左山でハイマツが覆いかぶさるような斜面の狭い道をトラバース。歩く人が少ないことが分かる道だ。ヤブの足元にはアキノキリンソウやゴゼンタチバナが咲いている。

 左のピークをやり過ごし、雪渓のある谷が現れる。前方を登る先ほどの男性と、さらにその先を登るパーティーを見上げながら、登りに取り付く。平湯まで8.6kmの表示。まだ1km歩いただけである。姫ヶ原へは左へ0.4km。次回は訪れてみたい場所だ。前方に2つのピークを見ながら15分ほどで登りきる。

 登りきったピークからはなだらかな尾根道が続く。シラタマノキやアオノツガザクラが地面に張り付く。砂礫の尾根にはコマクサがいくつもの群落をつくっている。小さな石ころで登山道と群落の境が仕切られている程度で、登山者が増えたときの踏み込み防止の対策が必要だと感じた。ここからは、ガスがなければ乗鞍はすばらしい展望が得られるにちがいない。

 コマクサの写真を撮りながら、最高に気持のいい尾根歩きを楽しんでいると前方からやってきた3人パーティーに遭遇。顔を見合わせてびっくり。その1人がこの冬に御在所岳を案内していただいたTOSIさんではないか。朝、平湯温泉バスターミナル近くで平湯スキー場に向けて登っていく3人を見かけ、TOSIさんに似ていると思ったが、やっぱりだった。聞けば、岐阜やまびこ山岳会のメンバーで新登山道初挑戦。登りを選ぶところがすごい。我々とはレベルが違う。10分程話をして、記念写真を撮って皆さんと分かれた。3人は平湯発が5時45分頃で、ここで11時30分。なんと長いコースであろうか。この先、下り終えて、よくこれを登ってこられたものだとさらに感心することになる。

 少し下って再び前方にピーク。このピークが硫黄岳であろう。道はピークの左側をトラバースしている。硫黄岳のトラバースの途中の登山道で昼食にする。濃いガスが湧き始めた。虫が寄ってきたので、蚊取り線香で追い払う。ラーメンにおでんという変な取り合わせのランチ。ラーメンが美味しかった。コーヒーを沸かそうとした頃、ポツポツと雨が降り始めた。先は長いのでコーヒーはあきらめ、ザックカバーをかけて早々とスタート。

 トラバースを終えて再び尾根歩き。すっかりガスって、周囲の展望はないが、足元にはマイズルソウやゴゼンタチバナ、キバナシャクナゲが咲き、イワギキョウの群落も見られた。岩が飛び出した気持ちのいい尾根をゆっくり下っていく。小雨ではあるが、一向に止む気配がないので、早めに雨具を着た。スーパーバッグに靴を包んでズボンをはくと靴を脱がなくてもいい。

 ササの急斜面を下る。刈ったばかりのササが道に敷きつめられて、滑りやすい。再び尾根に出て、ミドリユキザサの花やイワウチワの葉を見る。だいぶ標高が低くなってきたようだ。ナナカマドやダケカンバの潅木の尾根が続く。雨にぬれたササのヤブをこぐ。道は明瞭。潅木が右に枝を伸ばしており、風が強い場所のようだ。濃い霧の小雨の中を歩く。枯れ木が幻想的な風景を作っている。雨具を着るのは昨年の別山以来。雨の山もいい。

 ササ付きの尾根は続く。クルマユリの赤い花がアクセントをつける。しだいに木々の背丈が高くなっていく。コバイケイソウやニッコウキスゲの群落を横断。道にはツマトリソウの可憐な白い花。展望地を通過するが、ガスで展望はない。崩壊地を横断。崩壊地の登りにはゼブラロープが設置してある。

 尾根を歩いているのだが、しだいに湿地のようになってきた。ヒョウタンボクのおもしろい花がたくさん見られる。右手に川のような長細い池が現れる。ヤブのような登りが続く。キヌガサソウやサンカヨウなどがうっそうと繁っており、池も見られる。まさに窪んだ湿地である。岩の隙間をよじ登り、潅木の下を潜る。ズダヤクシュやカニコウモリが質素な花を付け、緑に映える。みずみずしい生命力を感じる世界が続く。

 シダを分け、赤テープを追っていくと谷に奥に突き当たり、正面の岩に白ペンキの矢印がある。この辺りの草はまだ芽を吹いておらず、ナナカマドも葉を広げ始めたばかり。最近まで雪があったようだ。

 矢印に沿って登るとすぐに神社のある広場に出た。数名の登山者が休息中。同じパーティーの方々のようだ。神社には「乗鞍大権現」の石柱。標識を見てびっくり。平湯までまだ6.3kmもある。残りがまだ2/3あるとは・・・。雨が止んだので、雨具の上着を脱ぎ、10分ほど休んで出発。

 ダケカンバの林を、右に大岩を見ながらゆるやかに登っていく。この辺りも道ができたばかりのようで、苔むした岩の上を歩く。ここから、主尾根を後に平湯スキー場を目指して枝尾根に向かう。ダケカンバの林が美しい。雪で大きく曲がった幹を乗り越えて、やはり苔むしたごろごろした岩の上を下っていく。ミツバオウレンやゴゼンタチバナがきれいだ。昨年歩いた五色ヶ原を思わせる。乗鞍山麓の天然林はすばらしい。やがて、この道も大勢の登山者で、苔は消えしっかりした踏み跡がつけられるであろう。未熟な道は今しか歩けない。

 オオシラビソの林の中、谷を登り返して、目の前に直線の急坂が現れる。真っすぐに切り開かれた道を、切り株に注意しながら下って行く。ゴゼンタチバナ、ツマトリソウ、タニギキョウ、オウレンなど白いかわいい花が続く。いつしか道はオオシラビソの痩せ尾根に変わり、尾根が切れると草つきの急坂が待ち受ける。急緩繰り返しながら高度を下げる。切り払ったばかりの道で、木の根と泥で滑りやすい。ササの道は刈り取ったばかりで茎が残りこれもまた滑りやすい。

 名古屋営林支局の境界見出票を見る頃、水場の標識が現れる。水場は左へ下る。平湯まで5.2km。まだ半分以上ある。赤テープのオオシラビソの尾根からササ道へ。ふかふかの道で、この辺りの原生林もすばらしい。ギンリョウソウやツルリンドウを楽しみながら、右側が崩れ落ちて深い谷になっている崩壊地を通過。標高も低くなりすっかりガスも晴れてきた。

 「白猿ヶ池 右24m」の表示。右に踏み込んでみると神秘的な池が静まり返っていた。池から一旦下ってササの道を登り、しばらくして三角点を通過。GPSを見るとスキー場は目の前。桔梗ヶ原の下り口で出会った休息中の男性を抜いてすぐにゲレンデに飛び出した。平湯まで3kmの表示。ここまで来ればあとわずか・・といってもまだ1/3ある。

 ここで泥だらけになった雨具のズボンを脱いで20分ほど大休止。ポカリスエットを作ってクッキーでエネルギー補給。先ほどの男性を追いながらゲレンデを下る。ブルドーザーでならされたガラガラのゲレンデ歩きは足にこたえた。急斜面で足が痛い。ジグザグに歩いたり、後ろ向きに歩いたりと、だましだましの下り。

 途中で下界が望めたが、なんと平湯トンネルははるか下に見える。「きついゲレンデですね」と休息中の男性を再び追い抜き、ゲレンデの右端を大回りしながらヘロヘロで平湯まで2km地点を通過。カーブを曲がるたびに急坂が現れる。トリアシショウマやクガイソウの花に気を紛らわしながら、最下部のリフトにたどりついて、最後の直線コースへ。足にやさしい草の中をジグザグに歩いて、ゲレンデを下りきった。

 国道の信号機を渡り、バスターミナルへ。アカンダナ駐車場行きのバスが停まっていたが、さすがに走る気にはなれなかった。バスターミナルでゴール。ベンチに座り込んで長い1日を振り返る。実に充実した1日。アカンダナ駐車場行きのシャトルバスがすぐにやって来た。2人だけの貸切で駐車場まで戻った。今度は、天気のいい日にもう一度下ってみたいコース。紅葉の時期も期待できそうだ。畳平のパトロールの方の言葉が思い出された。「お薦めのコースですよ。」
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