トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部誤動作あり 点線は推定トレース
大倉滝 (約1000m・高山市) 2008.9.14 晴れ 4人

 森林公園おおくら滝駐車場(9:54)→いにしえコース分岐点(10:02)→白竜橋(10:21)→東屋(10:27)→羽衣の滝(10:39)→川字橋(10:44)→くぐり岩(10:50)→大倉滝(11:08-13:05)→林道合流(13:10)→森林公園おおくら滝駐車場(14:16)

 昨年、高屹山にご一緒したMIZUさんと1年ぶりに山に行くことにした。今回は、公民館長さんも同行いただけることになった。どちらも地域活動でお世話になっている。また、お二人は植物に詳しく、植物観察をしながら一緒に歩けるのも楽しみの1つ。標高差が少なく、植物の豊富な山を探し、大倉滝に決めた。

 大倉滝は、せせらぎ街道を通過するたびに、気になっていた滝である。高山市が発行している「森林浴とウォーキング 自然散策」のパンフレットによると、「おおくら滝遊歩道」のモデルコースは1周約3.3kmで標高差220m。所要時間は1時間30分と、手ごろな森林浴コースとして整備されているようだ。
 
 郡上八幡ICからせせらぎ街道を上る。西ウレ峠から下って、「清見すのまたキャンプ場」を過ぎて大倉トンネルを抜けた右側に「森林公園おおくら滝駐車場」がある。この広い駐車場の隣には「そば処清見庵おおくら店」がある。駐車場はトイレ付き。登山口はこのトイレの右側の舗装林道を渡ったところにあった。

 ベンチで靴を履き替えて出発。館長さんは懐かしいキャラバンシューズ。この靴でアルプスの夏山を歩いた思い出がよみがえる。登山口の前にヤマボウシの木があり、サッカーボールを小さくしたような赤い実がたくさんなっていた。館長さんの「食べられるよ」という言葉に、皆、実を口に。食べられることは知っていたが食べるのは初めて。マンゴーとアボガドを混ぜ合わせたような果肉で、まずくはない。種は地面に返す。
 
 舗装された林道を渡って登山口へ。「おおくら滝入口 徒歩で登り40分」の看板があり、案内図もある。案内図を確認して、「百滝コース」で大倉滝まで登り、「いにしえコース」を下ることにした。石段を登るとすぐに「いにしえコース」を左に分ける。ちょうどトンネルの上を歩いている。白花のツリフネソウが赤花よりも多い。シロバナに出会うのは久しぶり。

 道は右に向きを変え、人工林の中、石畳のなだらかな道を歩く。石畳の隙間にホコリタケがいくつか見られた。指で押さえると茶色い胞子がほこりのように飛び出すのが面白い。人工林を抜けて天然林の道となる。マタタビが頭上で黄色に熟した実を付けていた。トチノキやホオノキなどの木を見上げ、立ち止まっては観察。館長さんがブナの幼木を発見。葉の裏側に細かい毛がある。毛があるものはイヌブナだと教えてもらった。折り返して下っていく。右手下方には国道が見える。シダの仲間であるイノデが林床に広がる。イノデの名称は葉の根元の毛がイノシシの手(足)の毛に似ているからだそうだ。なるほどと納得。
 
 白竜橋を渡る。下方にある滝は「滑座の滝」。舗装道路に出て、ゆるやかに登る。この下の国道沿いにも駐車場がある。アキチョウジなどを見ながら歩くと山道になり、大岩の横を通過して5分ほどで東屋に着いた。東屋の前にはカツラの木があり、すでに黄色くなったハート型の葉が散っていた。良い香りがする葉の木という意味から「香出ら」と呼ばれ、カツラになったそうだ。

 東屋の脇を抜けて、ジュウモンジシダやイノデを見ながら石畳を歩き、橋を渡って谷の左側を登る。クサボタンの花が終わり、綿毛の実を付けはじめていた。また、サラシナショウマの群落があり、純白の巨大な花が谷風に揺れている。珍しい花ではないが、この花を見つけると何故か嬉しくなる。なんでもない単子葉植物の葉を見て、ウラハグサと教えてもらった。葉が同じ方向を向いており、裏を向くはずの葉が常に表を向く仕組みになっている。気にも留めない単子葉植物も面白いものがある。ノブキは花が終わり、緑色のヒトデのような実を付けていた。
 
 落差の小さい「竜延の滝」を鑑賞。さらに登ると水辺でトリカブトが美しい薄紫色の花を咲かせている。谷にハングした大岩が現れ、その先に揺やかに流れ落ちる滝があった。「羽衣の滝」である。大岩を巻くと上方から「羽衣の滝」を見下ろすことができた。さらに木道を歩くと、今までよりも落差のある美しい「昇竜の滝」が現れる。滝の上にはこれから歩く川字橋が見える。ここでもゆっくりと滝を観察。
 
 滝を後に、木造の立派な川字橋を渡る。橋の上から谷川を見下ろすと、苔むした岩の上にいくつかのダイモンジソウが花を咲かせていた。谷の右側の石段を登り大きな岩の左で、滝のカーテンを見る。この滝に名前は付いてないようだ。大岩の手前に「くぐり岩」の標示。巨大な岩の下に人が歩ける大きな空間ができており、まるで洞窟のようだ。ここを潜る。滝口橋を渡り、上方まで続く滝を見ながら、今度は谷の左側を登る。この滝にも名前が無い。この先、滝が連続する。
 
 白い滝を見ながらぐんぐん登っていくと、木道が現れ、その手前に「登竜門滝」の標示。かなり上の方まで滝が続く。MIZUさんが滝の近くまで降りて観察。黒い岩肌を勢いよく流れる白い滝は豪快で美しい。ちょうど手すりの丸木にカメラが置けたので、4人並んでタイマーでシャッターを切った。苔に覆われた岩に咲くダイモンジソウが、吹き降ろす風に花びらを揺らしている。時計回りに歩き、再び木道を登る。「登竜門滝」の上部は水の流れが2つに分かれている。木道の先でこの滝を鑑賞。鑑賞したら、滝を離れて急な石の階段を登って再び木道を通過すると、ひと登りで前方に滝と管理棟が見えてきた。ここがゴールの大倉滝である。
 
 巨大な岩壁が眼前に立ちはだかり、その上部から左へ一直線に白い水しぶきが落ちる。見事な滝だ。近すぎてカメラのファインダーに収まらない。見物客は誰もいない。MIZUさんは滝直下へ。全員で滝の前で記念撮影。滝を見上げる場所は広く、管理棟やベンチがある。四角い岩をテーブルにランチの準備。メニューは豆乳鍋。運転手以外、ビールで乾杯。鍋が沸騰するまで、MIZUさん持参の柿を頂く。今年初の美味しい早生柿。
 
 4人で鍋を囲みながら、山談義・植物談義・思い出話などで盛り上がった。館長さんには途中で見かけた植物を図鑑で調べていただいた。MIZUさんは、小さなスケッチブックを取り出して滝をスケッチ。観光客が次第に増えてきた。滝の上にある駐車場から降りてくる人が多い。ハイヒールの女性も見られ、急な道をおぼつかない足取りで降りてくる。さらに、ツーリングの若者たちが20人ほどやってきて、滝見台は30人ほどの人で賑やかになった。隣では家族連れがシートを広げてランチタイム。登ってくる人から、我々の宴会を見て「いいですね。」と挨拶。いつもの山頂とは違い、観光地に山屋の不釣合いな状態。コーヒータイムのデザートは館長さんが持ってみえた高級洋菓子。コーヒーを終えるころには、観光客は少なくなっていた。
 
 2時間のランチを楽しんだ後、下山路は「いにしえコース」を下る。大倉滝を右に見ながらイノデの斜面から苔むした岩の間を登っていく。所々にオオハンゴンソウの黄色い花が咲いている。オオハンゴンソウは、外来生物法により特定外来生物に指定されている。せせらぎ街道沿いにはこの花が多く見られる。

 少し登ったところで、左に分岐がある。「いにしえコース」のショートカットのようなので、上の駐車場まで登らず、左にトラバースして、すぐに「いにしえコース」の未舗装林道に出た。ここからは林道の下りとなる。道はミゾソバなどの草に覆われて、あまり人が歩いているとは思えなかった。それでも草刈がされており、歩くのに問題はない。ここでも植物観察が続く。
 
 ミヤマガマズミが真っ赤な実を付けている。館長さんが食べてみるとかなりすっぱいとのこと。アケボノソウを発見。刈り取られて、根本から出てきた枝に小さな花を咲かせたところだった。蕾が多く、咲いていた花は一輪。ところが花びらは5枚ではなく3枚しかない。雄しべも3本しかないので、花びらが散ったわけではないようだ。後で調べてみると、アケボノソウの花びらの枚数は多いもの少ないものがあるようで、3枚花も稀に見られるようだ。
 
 白いキク科の花がいくつか見られ、ゴマナだと思ったが、館長さんの同定によるとヤマシロギクとのこと。ゴマナよりもやや花びらの枚数が少なく、またゴマナよりも茎が弱いのが特徴。房状の実を付けたフサザクラや緑色の実をブドウのようにぶら下げたキブシを教えてもらった。キブシは来年の花芽を付けている。春にかんざしのような花を見てみたいものである。

 アキチョウジに似た花はカメバヒキオコシ。斜面の大きなシダはイヌガンソク。線香花火のような花はクルマバハグマ。ひときわ目を引く和風の花はニシキハギ。つやのある葉はバイカツツジ。葉だけで同定できる館長さんはさすがにプロ。オオヤマボクチは蕾が大きく膨らんで花を咲かせる前。立ち止まりながら道端の植物との対話が続く。山の住人達の名前をいかに知らないかを痛感。彼らの名前を覚えると、山歩きはもっと楽しくなるに違いないと思った。

 展望のいいところで、後方、緑の谷に大倉滝の上半分が見えた。紅葉の時期にはすばらしい秋色のモザイクの谷になるだろう。四季を通じて歩いてみたい道である。プラスチックコンテナのある水場を通過。ここから国道沿いの建物まで水が引かれているようだ。タマアジサイの遅れ花やイヌガヤの実、実をつけたイチヤクソウ、咲き始めたテンニンソウなどを見ながら下っていく。随所で見かけたアザミの名前がわからなかったが、後に館長さんからスズカアザミではないかと教えてもらった。アザミの同定は、スミレと同様に難しい。
 
 トチノキの下で、たくさんのトチの実が落ちている。立派な実を拾って歩いた。残念ながら、かなり時間をかけてアクを抜かないと食用にはならない。MIZUさんの庭にある大きなトチノキは種から育てたもの。地面にツリバナの赤い実が散らばっている。カエデの実もたくさん落ちている。山は夏から秋へと移り変わろうとしている。

 滝から1時間ほどゆっくりと歩いてかなり下ってきた。右へ石の階段が分岐している。滝上部に繋がる車道に出る道のようだ。コンクリートの水道施設を通過して人工林に入ると、樹間に車道と建物が見えてきた。ヒノキ林の中で館長さんがオウレンを発見。こんなところにも思わぬ植物があるものだ。

 車道を横断して駐車場に戻った。「そば処清見庵おおくら店」の庭園を散策して、靴を履き替えた。舗装された大倉滝上部まで続く林道の途中に「滝見展望台」があるので、車で行ってみることにした。滝上部の駐車場まで約2kmある。車ならわずかな時間で行くことができる。展望台を通過して滝上部の駐車場まで登ってみた。駐車場は2つに分かれおり、10台くらいは停められそうだ。駐車場近くから展望台と幾重にも重なる山並みが望めた。

 展望台まで戻って展望を楽しむ。遠くに乗鞍岳や御嶽山の一部を確認できた。手前には位山と川上岳に続く天空遊歩道が長い線を引く。展望の後はここでも植物観察。展望台の隣にヤマナラシというポプラの仲間の木があった。葉柄は縦に広くなっており、風で葉がざわめくように揺れる。これが名前の由来だそうだ。なるほどと、納得。たいへん勉強になった1日。お二人に感謝。

 大倉滝は標高差220mと滝を見ながら登るコースはファミリー向き。大倉滝だけを見に車で林道を登るよりは、たくさんの滝や植物を見ながら百滝コースを登るのがお勧め。思わぬ穴場のコースである。新緑や紅葉の時期に、カメラを持って登りたいコースでもある。

 今回、撮影した写真を整理したが、教えてもらった植物の名前を忘れてしまったものもあったので、MIZUさんを通じて館長さんに写真入のCDを渡したところ、すぐに詳細な名前のメモが届いた。またまた感謝。

 時間を気にしないで、ゆっくり、のんびり歩くのも、時にはいいものだ。贅沢な山旅だった。
★百滝コースで見られる滝


★大倉滝の植物


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