トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部誤動作あり 
高嶺山 (1599m 長野県) 2009.8.23 晴れ・曇り 2人

林道入口・駐車地点(9:10)→谷川横断(9:16)→尾根(9:26)→林道横断@(10:08)→林道横断A(10:20)→林道横断B(10:33)→長者峰(10:47-10:59)→高嶺山(11:21-12:25)→長者峰(12:47-13:00)→林道入口・駐車地点(13:50)

 高嶺山と書いて「たかねやま」と読む。高嶺とは「高い峰」を意味し、「高嶺の花」という言葉を真っ先に思い出す。「高いところに咲いている花」という意味で、「見えてはいるが手の届かないもの」を表現するときに使われる言葉。ところが、今回歩いた高嶺山は手の届くところでたくさんの花に出会うことができ、お気に入りの山となった。

 2年前の積雪期。蛇峠山でスノーシューハイクを楽しんだ帰路、治部坂峠を後に国道153号線を南下すると、右側に「高嶺山登山口」の表示を見つけた。調べてみると、高嶺山は大川入山の南にある標高1600mほどの山で、蛇峠山から撮った写真にも山頂に白い雪原がある高嶺山が写っていた。山頂手前の長者峰まで舗装林道が開設されており、車を使えば簡単に山頂を踏むことができるが、林道以外にも登山道が整備されており、標高差650mほどを歩いて登れることが分かった。「いつか登ろう」そう決めた山である。

 この夏は、例年以上に多忙で、山に出かける機会が全く無い。町内行事も一段落し、ようやく1日だけ山へ行く日を確保。この時期、暑さを避けるために、標高1500m以上で日帰りのできる山を探し、高嶺山にたどりついた。登山口は道の駅「信州平谷」の近くにあり、アプローチは容易。

 午前7時前に自宅を出て、中央自動車道園原ICを下り、昼神温泉を抜けたところから、国道153号線で平谷村を目指す。治部阪峠を下り、右手に長者峰まで上がれる高嶺山林道の入り口を見ながら、さらに下ると道の駅「信州平谷」がある。併設されている日帰り温泉「ひまわりの湯」の前にある交差点を右折して、橋を渡ると諏訪神社に突き当る。右折して柳川沿いに走ると、カーブして山に突き当った先辺りで、未舗装林道が山側に分岐しており、高嶺山登山口の表示があった。既に2台の車が駐車してあり、林道入口を塞がないように車を停めた。3台くらい駐車可能。

 「熊注意」の表示を見ながら、靴を履き替えて出発。右手に谷川を見ながら広い林道を歩く。砂地の林道は雨水の浸食で掘れて水が流れている。ツリフネソウやオカトラノオ、ヤマアジサイなどを見ながら数分歩くと「こちら→」の標示が現れ、谷に降りて渡河。フシグロセンノウのオレンジ色の花が美しい。ヒノキの人工林に入り、薄暗い山道をジグザグと登る。ヤマジノホトトギスの花が足もとに見られる。秋が確実に近づいていることを感じながら、ふかふかの道を登る。

 すぐに谷を離れて暗い人工林を登る。数分でツガの立つ尾根に出た。尾根の両側から谷川の音が聞こえてくる。ここから尾根歩きが始まる。ふかふかの地面の適度な登りが続く。天然林の林床はササに覆われ、木漏れ日が落ちる。ヒカゲチョウが舞い、ザトウムシが地面を駆ける。かなり急な尾根をジグザグ登ると、なだらかになり左手にヒノキ林が現れる。明るい尾根となりノギランの花が見られる。ここでデジタルカメラのメモリーがゼロの標示。メモリーカードが入っていないことに気付き、画像サイズを最小にして、数十枚を確保した。

 このアクシデントで10分ほど休憩してスタート。カラマツが現れ、足元にチゴユリやイワカガミの葉を見ながら歩く。ヤマジノホトトギスもいくつか見られる。いきなりガードレールが見え、アスファルト舗装の林道に出た。山道は林道を横断して林に消えている。カラマツ林の天然林の道が続く。道はなだらかで、左山から右山へと尾根を跨ぐ。ヤマジノホトトギスやイチヤクソウを見ながら気持のいい天然林を10分ほど歩くと、再びカーブミラーのある林道に出た。林道を右へ10mほど登ったカーブのところに山道がある。
 
 林道を走る車を見ながら、「こちら」の標示から山に入る。登りきったところで、展望が開け、大船山方向の風力発電用の風車群や蛇峠山のアンテナ群が見える。かなり高度をかせいだ。美しい天然林が続く。左手の深い谷から渓流の音が聞こえる。そして、三度、林道に出る。今度は左へ30mほど歩いたナナカマドの並木の間から山道に入る。樹木の背丈が低くなり、明るいササの道となり、後方には平谷の集落や茶臼山が見える。涼しい風が山肌を駆け抜ける。アキノキリンソウやリンドウはまだ蕾。秋には美しい花を咲かせるだろう。
 
 電柱が現れ、前方には青い屋根の建物も見える。四度、林道に出ると長者峰駐車場は目の前。高台にはガラス張りの立派な東屋も見える。林道終点の駐車場に着いて、正面の雄大な大川入山に感動。山頂付近のササ原の緑が美しい。広場には2台の車があり、人影は無い。ここから高嶺山までは20分のコースタイムで、ハイキングに訪れた車のようだ。駐車場の隅には大きな石碑や避難小屋があり、北側には自然プラネタリウムと書かれた夏の星座板が石で作ってある。面白いアイディア。夏の夜、ここからは満天の星が見られるに違いない。
 
 この先、車止めの先に高嶺山に向う未舗装の林道が続いている。この車止めから右へ登ってまずは長者峰の三角点を踏む。アカバナを見ながらひと登りで東屋のある展望地に立った。大川入山の左には恵那山がいつもとは違う鋭角の山容を見せる。東には蛇峠山の向こうに南アルプスが美しいシルエットを作る。2年前に雪の蛇峠山から見た白い山並みとは一味違ったアルプスをしばらく眺めた。東屋には二名の登山者が休息中。ベンチでパンを食べて、高嶺山を目指す。
 
 車止めまで戻って、西へ向って林道を歩く。すぐに開放された鉄柵を通過。ササの中に支柱や鉄条網が残されており、かつてこの稜線付近は放牧地となっていたようだ。林道は稜線の左を通っており、南側の展望がすばらしい。左前方には岐阜県の上矢作町にある大船山と風車群が望める。左眼下には道の駅がある平谷村中心地が十字形に見える。その先には茶臼山が一際高い姿で裾野を広げる。
 
 日当たりのいい高原となり、樹林帯とは違う花に次々と出会う。久しぶりのハナイカリやルリトラノオに出会えた。ツリガネニンジン、コオニユリ、ヤマハハコ、マツムシソウ、ヤマトリカブト、ウツボグサ、ハンゴンソウ、ツルリンドウそして紅白のノリウツギが美しい。高嶺山から戻ってくる家族連れに出会った。道は右方向にカーブしながら下っていく。ヒカゲチョウに交じってキベリタテハが慌しく飛び回っている。ササの葉に止まるゴイシシジミも見つけた。

 前方に高嶺山が近づいてきた。草原の中の一本道が山頂に上がっている。暗部で道は二手に分かれており、登りは直登コースを選んだ。草付きの広い道を一気に登りきって高嶺山山頂の標示があるところから右に入ると最高点。樹木に囲まれて展望はわずか。標示は何も無いがここが山頂のようだ。道はさらに先へと下っていたので少しだけ踏み込んでみたが、刈り取られたばかりのササの茎が邪魔して歩きにくく、道は下り一方なので、すぐに引き返す。
 
 ランチは山頂直下の広い登山道の脇でとることにした。三人パーティーが展望のいい登山道脇で昼食中だった。ササを背に、シートを敷いてランチにする。目の前には今歩いてきた長者峰からの道、その先に南アルプスを見ながら最高のロケーションでのランチ。メニューは冷やしそばと冷奴豆腐、缶詰。周囲にネジバナやハナイカリ、オカトラノオ、アカバナ、ツリガネニンジンが咲いている。
 
 目の前をパラグライダーが優雅にゆっくりと空中を舞っている。長者平直下にパラグライダーのフライト地点があり、ここから次々と飛び立ってくる。カラフルな色のキャノピーが美しい。我々の目の前まで飛んでくるパラグライダーもあり、緑の高原にいる我々は向こうからも見えていることだろう。コーヒーを飲みながら、のんびりとパラグライダーを眺めた。やさしい風は、秋を思わせる。空には雲が広がり、直射日光に照らされることもなく、気持がいい。隣のパーティーは先に下山し、長者峰への道を歩く姿が見えた。誰も登ってこない静かな山頂で昼寝をしたいところであるが、山頂を後にした。
 
 下りは時計と反対周りに歩く。アキノキリンソウやシロバナニガナを見ながら分岐点で往路の道に合流して、長者峰へ登り返した。避難小屋の裏に細い道が東へ続いていたので、入り込んでみると大川入山や南アルプスの展望地があった。恵那山に雲がかかり始めていた。駐車場まで戻って避難小屋を覗くと、開放されて内部には畳の部屋もある。トイレもあるが、清掃されておらず使用できるような状態ではなかった。

 林道終点から登ってきた道を下った。ふかふかの道で歩きやすく、林道を3度横断して、登山口に1時間ほどで戻った。黒い雲が東の空を覆い、小雨が降り始めた。道の駅に併設された「ひまわりの湯」に浸かって疲れを癒した後、農産物直売所で糖度の高い生食用トウモロコシ「ハーモニーショコラ」やリンゴ・ナシなどを購入。どれもたいへん美味しかった。咲き始めたコスモスが風に揺れる田園を抜けて、上矢作町経由で岐阜市に向った。

 高嶺山は夏場の日帰りの山としてお勧めの1山である。石があるような道はほとんどなく、迷うようなところもない。長者峰まで車で上がれるので、山頂付近は観光客も見られちょっとがっかりする部分もあるが、麓から歩けば山頂までは2時間以上かかり、歩き足りないようなことはない。さらに、山頂付近は涼しい風が吹き、展望は一級。樹林帯と高原の組み合わせで花も多い。この時期、花は全く期待しないで登ったが、ハナイカリやルリトラノオなど久しぶりの花に出会った。また、ミヤマウズラやミヤマフタバランなどの野生ランも見つけることができた。残雪期に登っても面白そうな山である。
★高嶺山からの展望


★高嶺山の植物


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