トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※誤動作あり 点線は推定トレース

高時山・唐塩山 (1563m 1609m 中津川市) 2009.6.20 晴れ・曇り 2人

木曽谷林道登山口(9:13)→木曽越峠(9:23)→1434mピーク(9:47)→高時山山頂(10:08-10:24)→木曽越峠(10:56)→唐塩山登山口(11:21)→1444m三角点(11:44-12:14)→1537mピーク(11:46)→茂岩林道(13:06)→唐塩山山頂(13:27-13:40)→1444m三角点(14:33)→木曽越林道・唐塩山登山口(14:49)→木曽越峠(15:10)→木曽谷林道登山口(15:16)

 白い礫が散らばる林道の凹凸の少ないところを選んで、ハンドルを切る。跳ねた石が車体の底に当たって大きな音をたてる。雨水を逃がす溝で腹をする。「どうしてこんな道に来たの!」と助手席で怒りの声。「もっと早く言えよ!」とハンドルにしがみつく。「言っているのに、何故聞いてくれないの!」 確かに木曽谷林道が最短距離だと思って、言うことを聞かなかったのは事実。こちらの分が悪いが、いまさら引き返せない。前方に白い「登山口」の標示が見えた。やっとのことで木曽越峠への登山口に着いたが、険悪なムードは収まらない。

 そもそも発端は、この登山計画の全てをらくえぬに任せたことから始まる。行き先は、旧加子母村の高時山と唐塩山。高時山への登山口は木曽越峠にあり、度合温泉から峠を目指すコースと、加子母総合事務所から木曽谷林道を詰めて木曽越峠直下から歩き始めるコースの二通りがあるが、近年、木曽越林道が整備されたことから、木曽越峠まで車を乗り入れることができるようになった。らくえぬは木曽越林道を行くコースで登山計画を立てた。木曽越林道は状態も良く、また高時山と唐塩山の登山口を車で移動して歩く時間を短縮できる。そんな状況になっているとは全く知らずに、木曽谷林道を利用するものと思い込んでいた。二人の考えに相違があるまま、登山口に向ったことから、この言い合いとなった。

 険悪なムードの中、靴を履き替える。暑いのでスパッツは付けないというらくえぬに、「この時期はマダニが出るぞ!」との脅し言葉をかけると、しぶしぶスパッツを付けた。この時、この言葉どおり、かつて経験したことのない体験をすることになるとは思いもしなかった。

 木曽越峠への矢印に従って山道に取り付く。人工林の中をジグザグと登って天然林になると、上方が明るくなり林道に飛び出した。10分の登りで木曽越峠に着いた。林道は広く、工事が終わったばかりで状態は良い。らくえぬの計画ではここに車を乗り付ける予定であった。さらに林道は先へ延びているがゲートで車両通行止めになっており、工事の音が聞こえる。工事車両も停まっている。林道の右側の法面上部に「高時山→」の標示があるので間伐材を並べた土留めの間から細道を登る。

 ササが広く刈り取られた道を2分ほど登ると、いきなり前方が開け、御嶽山が目に飛び込んできた。二人で歓声を上げる。霞んで見えないと思っていただけに、この感動は大きい。先ほどの険悪なムードは御嶽山のおかげで少し和らいだ。左下に工事中の林道を見下ろしながら歩く。足元にはホウチャクソウやツクバネソウ、既に終わりかけのギンリョウソウが見られる。「ジージー」と鳴くセミの声が響く尾根を歩くと左手が一部開けて、斜面を上る木曽越林道が見える。
 
 ササがよく刈られた道が続く。小鳥の鳴き声を聞きながらツガやミズナラの並ぶ道を歩く。倒木の下を潜りヒロハユキザサを見ながら進むと、高時山の標示があるピークに着いた。赤ペンキのコンクリート柱が埋まっており、道はここで直角に左に折れて下る。ここが1434mピークのようだ。広い道をアップダウンしながら歩く。急登はない。左手に稜線が見え、正面には木々の間にピークが見える。再び高時山の標示が現れ、ここも左へ折れると急登が始まる。
 
 5分ほどで急斜面を登りきって、三度、高時山の標示を見る。左方向に歩いて緑のトンネルを一気に登り詰めると、先頭から声が上がる。正面に堂々たる御嶽山がまるで我々を歓迎するように横たわっている。かつて、白草山で体験した感動が再び蘇った。見事な演出である。北側の展望が得られ、この後に目指す唐塩山から前山、小秀山の稜線が目の前に望める。奥三界山方向の山並みも見える。展望を楽しみ、写真を撮った。きれいに草が刈り取られた道だったのでダニの心配は無い。スパッツが暑いので外す。15分ほど山頂に滞在して、次の目標である唐塩山を目指す。
 
 登ってきた道を30分下って木曽越林道に出た。林道を横断して尾根に取り付けば山道があるようだが、ここからは林道を西に向って歩く。登り気味に未舗装の広い林道を歩く。右山で1369mピークを時計回りに巻くように歩いていく。簡単に唐塩山登山口に着くと思ったが、GPSと地図を見比べながら歩くと、結構距離がある。登山口間を車で移動するらくえぬの計画が正解のようだが、とにかく今は歩くしかない。林道後方には今登ってきた高時山が美しい三角形を見せる。

 20分ほど歩くと、残土置き場のような広場が右手に現れ、1369mピーク方向に「登山口」の標示を見つけた。帰路はこの山道を歩いて峠に戻ろう。ここからそのまま林道を歩いてカーブを曲がると、たくさんの木製ベンチが設置されている場所に出た。右手の法面に階段があり、「御岳展望台」の標示があるが、唐塩山の標示は無い。計画を作成したリーダーに従ってこの階段を登る。1分もたたないうちに、ササの中の標示板を発見。「小秀山自然歩道入口 小秀山往復8時間 高時山同4時間」と書いてある。このルートは唐塩山、前山を経て小秀山に至る。
 
 ギンリョウソウを見ながら背丈ほどもあるササの道を登っていくと、尾根のT字路に突き当たった。右へは御岳展望台の標示。ここは左へ赤テープを頼りに下っていく。マイヅルソウの葉が見られる。下りきって登り返す。再び深いササのヤブを抜ける。高時山の道に比べると実にワイルドである。人工林の中、急斜面を一直線に登る。11時半を回り、シャリバテ状態で力が入らない。斜面を登りきったら昼食にしようと言いながら、息を切らして登り詰めると、切り開きのピークに着いた。中央にある三角点が目に入った。1444mピークである。

 日陰に座り込んでランチにする。メニューは冷やし中華。今回はいつもとは違って、山頂手前でのランチ。火を使わないメニューなので簡単に昼食を終える。らくえぬのズボンの上を小さな虫が動いているのに気付いた。マダニである。足が黒く、背中の周辺がオレンジ色であることからシュルツェマダニに間違いない。ライム病媒介種だ。あわてて、衣服をチェックするがこの一匹以外に見つからなかった。先ほどの深いササヤブを抜けるときに取り付いたのであろう。この一匹のダニ騒動が、この後で遭遇する出来事の予告編になろうとは・・・。

 三角点を後に下って、鞍部から小ピークを越える。再び登り返すと正面に大きなピークが現れる。ササの道を抜けて人工林の急斜面を登り、さらにササの道が続く。次のピ−クには黄色いプラスチック杭の打ち込まれており、ここから急降下。ササヤブを抜けて右に直角に折れ、なだらかに下る。深いヤブを歩き、ヤブを抜けるたびにズボンを確認してマダニをチェック。急斜面を登る途中で、手前の山から頭を見せる御嶽山が見えた。ササユリがいくつか見られたが、花はまだのようだ。ズボンに小さな虫を見つけた。「いるいる。」1匹、2匹とマダニを見つけた。頻繁に立ち止まって足の前・横・後ろをチェックする。

 急斜面に取り付き見上げれば岩がある。シャクナゲの枝を潜って岩をよじ登ると、岩の上の展望地に出た。1537mピークのようだ。目の前には左の唐塩山から前山、小秀山の稜線が美しい。山腹を走る林道が見える。展望の良い岩尾根を下って、ササの中へ。ゴゼンタチバナの白い花を見つけて高山にいることを知る。そして、ここからの10分間、想像を絶するマダニの猛攻撃を受けることに。

 比較的背丈の低いササを歩き、ズボンを見るとマダニが取り付いている。帰路、ここを通過することから、マダニを生かしておく訳にはいかない。指でつまむと八本の足で指先に張り付いて離れない。指先でつぶそうとしても硬い表皮と平たい体で、つぶせるようなものではない。やむを得ず、地面の石に乗せて、小石でつぶした。10m歩くごとにマダニが取り付く。取ってつぶしているうちに、次のダニがズボンを這っている。血に飢えた吸血鬼がササの葉の先端で足を広げて獲物を待ち受ける。人が入ったのは久しぶりに違いない。とにかくこの場を早く通過しよう。つぶすのはあきらめて、払い落としながら歩く。スパッツを付けておくべきだった・・・。明るい色のズボンを履いていたことから、ダニを発見しやすいのがせめてもの救い。
 
 大岩の横を早足で通過。左下から林道が近づいてきた。周囲の景色を見る余裕も無く、ひたすらズボンをチェックし、マダニを払った。二人で20匹、いや30匹は取り除いたであろう。前方が開けて、尾根から林道に飛び出した。茂岩林道と言われる廃道に近い草の茂る林道で、互いにズボンをチェック。ここでも3匹ほどダニを見つけた。
 
 登山道は林道をまっすぐ横断して、法面を駆け上がっている。法面を登ると、道はササのヤブに消えている。再びマダニとの遭遇か・・・。10mごとにズボンをチェックするが、取り付いているダニはいない。林道を越えたとたんにマダニが消えた。やがて岩のある急斜面に突き当り、木や岩をつかんで登る。赤テープがあるが、尾根をたどれば道を迷うようなことはない。ピークを越えて、目の前の山頂を目指す。山頂手前の草丈の低いササの道でマダニを3匹払い落した。
 
 そして山頂に到着。三角点は左に入ったところにあった。西側が切り開かれており、展望が得られる。小バエが多い。ここでコーヒーを予定していたが、このハエと帰路のダニを考慮して「早く下ろう。」と意見が一致した。冷えたフルーツを食べて下山開始。
 
 山頂を後にしながら、往路で遭遇したマダニを状況を冷静に検証してみた。互いにマダニが取り付いた位置を確認すると、膝よりも上に着いたものはなく、また靴にも発見できなかった。もちろん上半身に付いたものはない。すなわち、地面から20〜30cm付近に集中しており、ズボンの全面又は側面に付くことが分かった。小動物に取り付くための最も適した高さなのであろう。また、取り付いたマダニはゆっくりと上へ動く。腰辺りへ登って来るまでには、かなりの時間がかかる。発見が遅れても十分に対処できる。さらに、すでに2人が歩いてきた道を下ることから、ササの葉の先で獲物を待つマダニはかなり払い落されているに違いない。往路ではパニックになったが、落着きを取り戻した。

 茂岩林道に降り立って、「行くぞ!」と、マダニの巣のヤブ尾根に突入する。1537mピークまでが勝負。ヤブを抜けるたびに、立ち止まってダニチェック。1匹、2匹、・・・ 数える余裕がでてきた。ピークまでに3匹発見。その後もチェックしながら下り、ベンチのある木曽越林道に降り立った時には、合計6匹を確認した。往路よりはかなり減っていた。
 
 林道から高時山へは山道を歩くつもりでいたが、このダニ騒動で林道を歩くことにした。前方に高時山を見ながら、林道を下る。無数の小バエが顔の周りを飛び回ってうるさい。途中で、木の枝と思って、ヘビを踏みかけた。木曽越峠から駐車地点の木曽谷林道までジグザグと樹林帯を下った。ここでも1匹のダニが取り付いた。下山時に合計7匹のマダニを確認したことになる。先頭を歩く者が4匹と、後を歩く者よりも多かった。車に戻ってダニがついていないか靴の中も詳細にチェックしたが、発見できなかった。

 それにしてもダニのおかげで、唐塩山は慌しい山歩きとなった。この時期、人のあまり入らないヤブの山はマダニが多い。ダニのいない時期に、今度は前山辺りまで歩きたいと思った。高時山の道はよく整備されており、山頂は一級の御嶽山展望地である。木曽谷林道は車高の低い2WDでは入り込まないほうがいい。木曽越林道の状態はいいようなので、次回に確認することとし、ササユリの花を見ながら、のろのろと木曽谷林道を下った。

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