地図はカシミール3Dで作成
 山のパノラマ写真を見る
立山 (3015m 富山県) 2005.5.3〜5.5 晴れ 2人

<5月3日>
立山駅西側駐車場(6:00)→立山駅(6:10-7:10)→(ケーブルカー)→美女平(7:20-7:35)→(バス)→室堂バスターミナル(8:20-9:00)→雷鳥沢キャンプ場(10:00-13:40)→奥大日岳手前ピーク(14:25-14:35)→雷鳥沢キャンプ場(15:10) テント泊
<5月4日>
雷鳥沢キャンプ場(6:47)→稜線(8:21)→剣御前小舎(8:34-9:04)→別山山頂(9:45-9:49)→真砂岳分岐(10:37)→真砂岳山頂(10:50-10:58)→真砂岳南稜線・昼食(11:03-11:50)→大汝休憩所(12:52-12:57)→大汝山山頂(13:04-13:15)→雄山山頂(13:58-14:24)→一ノ越小屋(15:16)→雷鳥沢キャンプ場(16:28) テント泊
<5月5日>
雷鳥沢キャンプ場(8:41)→室堂バスターミナル(9:49-10:03)→(バス)→美女平(10:50-11:15)→(ケーブルカー)→立山駅(11:22)→立山駅西側駐車場(11:30)

 20年以上前に夏の立山・剣を縦走した。残雪の残る緑の室堂平の輝きがすばらしく美しかったことを今でも鮮明に覚えている。春の立山は雪の大谷を目的にやってくる観光客で混雑するが、立山三山を背景に雪に覆われた雷鳥沢キャンプ場は山スキーヤーや登山者に人気の場所でもある。以前から、春に訪れたいと思っていた場所でもあった。

 今年のゴールデンウイークは仕事や行事が重なって、泊まりでの山行は無理かと思っていたが、なんとか3日間を確保。行き先を直前まで迷ったが、涸沢に比べてテントをかついでの歩行時間が短い立山に行くことにした。行きたいと思っていた念願の春の立山である。

 問題は2つ。1つは、いかに観光客の混雑を避けて室堂平に入るかである。立山駅で前夜泊して始発のケーブルカーに乗ることにした。もう1つは雷鳥沢キャンプ場のトイレと水場。雪の多い年は、この時期、テント場のトイレが雪に埋もれて使えないという情報を得ていた。当然、水場もない。このため食材は雪を溶かして調理できるレトルトをたくさん持つことにした。また飲料水も2人で4リットル持った。必然的にザックが重くなったが、これを背負っての歩行時間は1時間。重さを気にせず、食材と水を詰め込んだ。

 5月2日の仕事を終えて21時過ぎに出発。東海北陸自動車道終点からいぶしトンネルを抜け、41号線を経由して富山県へ。立山町への右折で少し迷ったが、1時前に立山駅に着いた。立山駅西側にある大駐車場はほぼ満車だったが、なんとか駐車できた。ここが満車の時には、立山駅北側に臨時駐車場があり、こちらはかなり余裕があった。駐車場のトイレは南側の道を渡ったところにある。テント泊まり組も見られた。下調べではケーブルカーの始発は7時10分。5時にアラームをセットして車中泊。

<5月3日>
 5時に起きた。満開の八重桜と残雪の残る山が目に入った。すでに身支度をしているパーティーがちらほら。我々も身支度をし、重いザックを背負って駅まで5分ほど歩く。らくえぬが一人で重いザックを背負えなかったのがおかしかった。前方の山をケーブルカーが下りてくるのを見ながら立山駅へ。

 駅は観光客でごった返していた。登山者やスキーヤーよりも雪の大谷目当ての観光客がはるかに多い。始発は6時10分だった。チケットを購入するため列に並ぶ。すでに15mほどの列。だが、10分ほど並んだだけで購入することができた。整理券が配布され、40分待ちの表示が我々の手前で1時間待ちに変わった。室堂バスターミナル往復は1人4190円。71便の整理券をもらい、呼び出しがあるまで土産物売り場などをぶらぶらした。

 7時10分発のケーブルカーに乗る。大きな荷物は後方の荷台に置く。ケーブルカーは美女平までの標高500m差を7分で運んでくれる。マッチ箱を押しつぶしたような平行四辺形の車体がカラカラとワイヤーを鳴らしながら単線のレールを登っていく。車内はすし詰め状態。途中トンネルを抜けるが、その手前が複線になっており下りの車体とすれ違う。ケーブルカーの特徴などを聞きながら、あっという間に美女平に着いた。

 ここからは高原バスに乗る。いよいよ雪の大谷を体験できる。大きな荷物はバスの横腹に詰め込まれた。荷物代金300円/個。タグを着けてバスへ。ところが、このバスは既に満車。荷物だけが先に出発した。トイレに行っている間に次のバスが着いた。立ち席はなく、ここから快適なバスの旅が始まる。美女平から室堂までの23km、標高差1473mを50分で走る。

 両脇に雪の残る道を登っていく。録音テープで案内が流れる。また、ビデオ映像では立山の四季の風景や植物、野鳥などを見せてくれる。これが結構楽しめる。大きな立山杉や称名滝展望地などでは停車してくれるのがうれしい。タムシバの咲く美しいブナ林を抜け、しだいに木々の背丈は低くなっていく。周りの山々がすばらしい展望で広がる。白い鍬崎山や大日岳が青い空に映える。

 弥陀ヶ原から天狗平へ。雪の壁はどんどん高くなっていく。薬師岳が美しい。はるか遠くに白山も望める。雪の壁に沿って、長いポールが並んでいる。このポールを目印に除雪して雪の大谷を作るそうだ。壮大なスケールで続く雪壁はちょっと感動。まさに一級の観光地。上高地へのバスの旅とは一味違う。10mはあろうかと思われる最も高い雪壁を過ぎると室堂バスターミナルに到着。

 バスを降りると一足先に到着したザックが転がっていた。タグの確認もない。さっそくザックを背負って、ターミナルの待合室へ。日焼け止めクリームを塗って、登山届場所を探した。1階に届出箱があったが、届出用紙がない。今回は、登山届を作成してこなかったので、この時困ったと思ったが、この後キャンプ場で提出することができた。

 ターミナル3階まで上がって、外に出る。感動の瞬間。立山三山が大パノラマで目の前に広がっている。今、立山にやって来たという実感がジワジワと湧きあがってきた。最高に美しい山が目の前にある。しばらく山を眺めた。先日購入したGPSをオンにし、テント場のある雷鳥平方面に向けて北に歩く。左手の奥大日岳が美しい。アイゼンはつけないでダブルストックで大勢の観光客に混じって歩いた。

 雪で埋まるみくりが池を右に見ながらみくりが池温泉からS字に下って雷鳥荘の近くまで歩いた。地獄谷から流れてくる硫黄の臭いが鼻をつく。見下ろせば雷鳥沢キャンプ場のテント群がはるか下に見える。この斜面を重いザックを背負ってツボ足ではちょっと危険。ここでアイゼンをつけた。ズルズルになった雪をかがとで踏み込んで一気にテント場まで下る。テントエリアの南に雪の中から掘り起こされたトイレの茶色の屋根が出ていた。トイレは使えるようだ。

 テントは約60張りほどあり、撤収した跡がいくつか見られた。昨年、涸沢で体験した強風の教訓を活かして、風上に雪の壁がある場所を選んだ。トイレを掘り起こした時にできた雪の壁である。早速、テント設営。今回は490円のアルミの小型スコップを持参。場ならしとペグの穴掘りに大いに役に立った。ペグは軽い棒状の板をクロスに組んで雪に埋めた。相当の力が加わっても抜けることはない。

 張り終えて、荷物を放り込み、歩いて数分程の雷鳥沢ヒュッテで缶ビールを購入。テント入口に腰を下ろして最高に美味しいビールを飲んだ。寝ころんで改めて山を眺める。青い空、白い山、黄色いテント。背中の雪が締まる感覚が心地よい。時間が止まったように山が動かなかった。

 一息ついて昼食の準備をした。メニューはスパゲティー。このロケーションの中では、何を食べても美味しい。ここのトイレは水洗で実にきれいだ。水は常に蛇口から流れており、こんなに水を持ってこなくてもよかったと後悔。次々と登山者が到着。隣の空き地には福井県からの単独男性がテントを設営。「山に登らなくてもここでビール飲むだけで十分。」と言われた。同感である。男性は明日、奥大日岳に行くとのこと。昨年は立山縦走を試みたが、剣御前小舎から先は風が強くて引き返したそうだ。この話しは人ごとではなかった・・・。

 昼食の後、奥大日岳へ続く稜線の室堂乗越辺りまで登ってみることにした。剣御前小舎を目指して雷鳥沢を登るパーティーのアリの行列が見える。奥大日岳へはその左を登り、一番低い尾根へ取り付く。トレースは尾根に向かってそこらじゅうにできている。どう歩いてもいいようだ。ピッケルとアイゼンで尾根を目指す。グングンと雷鳥平が眼下に遠ざかっていく。

 尾根手前の急登をこなして稜線へ。「すごい!」 目の前には巨大な奥大日岳のピラミッドが聳える。奥大日岳山頂へ続く稜線には雪のピークが美しい曲線を作っている。巨大な雪庇が張り出し、山頂手前の雪庇は雪崩となって谷を遙か下まで崩れ落ちている。Y字型の雪崩跡が荒々しい。その右には富山の市街地と深い谷を挟んで剣岳の岩肌が駆け上がり、手前の尾根に遮られてはいるもののかろうじて山頂が望めた。東には別山への尾根が大きい。南の室堂平や天狗平は真っ白。有料道路が雪原に曲線を描く。地獄谷から上がる水蒸気がこの山が生きていることを教えてくれる。

 奥大日岳をバックに記念写真を撮った後、この先のピークまで歩くことにした。右手に雪庇ができており、尾根に小さなクレパスが見られた。なんと快適な雪尾根歩きであろう。大日岳まで歩いてみたいと思った。ピークからはかなり見えるようになった剣を楽しんで、来た道を引き返した。いつか奥大日岳には登ろう。

 テント場に戻るとトイレの前にテーブルが置かれ、登山届けが出せるようになっていた。幕営料は1人500円。テント場の管理人さんはトイレと併設された小屋で寝泊りしているようだ。立山縦走の状況を聞くと、どちら周りでも登れるが、朝、雷鳥沢の凍った斜面をスリップに注意して登るか、午後にシリセードで下るかの違いらしい。当初は後者でと考えたが、朝、前者で登ることにした。結果的にはこれが正解のような気がした。

 陽が西に傾きテントの影が長くなった。テントは150張りほどに増えていた。影の雪は既に凍り始めている。早いが夕食にする。メニューはコッヘル焼きビビンバ。次第に赤く染まっていく立山を見ながらの食事が美味しかった。涸沢では朝日に山が染まるが、ここでは夕日に染まるのがおもしろい。朝食のパンプディングを作っておく。隣のテントから「おしゃれなもの作ってますね」と声がかかった。あちこちのテントから笑い声が聞こえ、雷鳥平は闇に包まれていく。かなり冷え込みそなので、ダウンのインナーとベストを重ね着してザックに足を突っ込んで、20時頃には眠りについた。

 深夜、トイレに起きる。ジャケットをはおってテントを出ると、満天の星。涸沢より空が広いのでたくさんの星が見える。あまりに星が多くて星座を確認するのに時間がかかった。青白く輝く大きな星は瞬きしていないので木星か土星だろうと思ったが、よく見ればおおいぬ座のシリウスではないか。この標高から見る恒星はほとんど瞬いていないのだ。冬の星のおおいぬ座を追いかけてきた夏のさそり座が浄土山の上でハサミを振り上げている。ギリシャ神話の神々が雪明かりの神の山の頭上に凍りついている。「宝石を散りばめたような」という表現はまさにこの状態なのだろう。寒いのも忘れて頭上を眺めた。ゆっくりと人工衛星が雄山の上を横切った。
(続きを見る)
 山のリストへ