横川山のパノラマと地図を見る
富士見台〜横川山〜南沢山 
(1739m・1620m・1564m 中津川市) 2005.6.5 晴れ・曇り 2人

神御坂峠(8:33)→萬岳荘(8:44)→稜線・神坂峠分岐点(8:55)→神坂小屋(9:00-9:05)→富士見台(9:12-9:19)→横川の名水(9:40)→横川山まで1.6km標識(9:45)→横川山まで0.5km標識(10:07)→横川山山頂(10:15-10:25)→南沢山山頂(10:44-10:53)→横川山山頂・昼食(11:19-12:28)→横川の名水(13:02)→富士見台山頂(13:36-13:46)→神坂小屋(13:56)→萬岳荘分岐点(13:58<ピーク往復>14:08)→御坂峠(14:32)

 よく似た名前の山がある。その1つが横山岳と横川山。横山岳には先週登ったが、前から登りたい山として富士見台と横川山に行きたくなった。名前つながりという単純な思いで選んだ今回の山歩きである。横川山は横山岳とは正反対の長野県境に位置する。位置が正反対だけでなく、男性的な横山岳に比べて横川山は実に穏やかで横山岳とは全く違った雰囲気の癒しの山。名前が似ていても男性と女性のごとく異なる趣を持つ山であった。

 横川山へは一般に2つの登山ルートがある。1つは長野県阿智村から南沢山を経て山頂に至るコース、もう1つは恵那山の登山口でもある神坂峠から富士見台経由で山頂に至るコースである。今回は後者で登る。

 けやき平キャンプ場のトイレに寄って、新緑の美しい峠道を車で登り、神坂峠に到着。(神坂峠までの経路は昨年の恵那山のレポートを参照されたい) 恵那山への登山者は朝早い。峠の駐車場は既に満車で、峠手前の路肩に停めた。次々と恵那山へ登っていくパーティーを後に、反対方向の車道を歩く。峠手前から尾根左を回り込むのが本来の登山道であるが、表示が神坂峠と書かれてあったためよく分からず、萬岳荘から登ることにした。

 舗装された林道を歩くと、すぐに大きな建物が現れる。萬岳荘である。富士見台への登山口は建物の西にある。富士見台まで1.5kmの表示。コンクリートの石段からササの中の広い道を登る。左手にはササのピークが美しい。一登りで稜線鞍部に出る。富士見台まで0.6kmの表示。稜線からは中津川市街とその左に大きな恵那山がピークの右にその巨体を覗かせている。その右にある山は前山であろうか。ここから南のピークを登る道や西側を迂回する道がある。帰路はこの道を歩くことにして先を急ぐ。

 ロープが張られた幅2mほどの稜線の道を登っていく。右手、遙か遠くの雲間に男性的な山並みが望めた。南アルプスのようだ。前方に小屋が2つ見えてくる。神坂小屋だ。小屋の回りにはヤマハハコが葉を広げ始めていた。下の小屋にはトイレがあるが、何故かトイレには鍵が掛かっており、使用できなかった。後方からご夫婦の登山者が登ってみえた。他に登山者はいない。

 ここから避雷針の立つ左のピークへササの中の道は続く。ササは雪の中で冬を越した後であり、葉はかなり傷んで緑と言うよりは黄色に近い。たくさんの芽が伸び始めており、今にこの丘陵は緑色に変わるに違いない。枯れる前のショウジョウバカマがいくつか見られた。中津川市は雷のメッカ。落雷事故も多く、この近くには慰霊碑もある。このため避雷針が建てられているのであろう。

 避雷針のピークから北に向きを変えると、ササに覆われた富士見台が美しい三角形を描く。ケルンが積まれた三角形の頂点に向かって真っ直ぐ続く道。青い空、白い綿雲。昔、昔、イメージした懐かしい風景がふっと脳裏をかすめた。「白い坂道が空まで続いている ゆらゆらかげろうが〜・・・〜空に憧れて〜空をかけてゆく〜・・・」 荒井由美の「ひこうき雲」のフレーズ。天国への道はきっとこんなふうだろう。

 ケルンの間を抜けて広いなだらかな富士見台山頂に着いた。恵那山をバックに記念写真を撮った。山頂の所々には濃い赤色のショウジョウバカマが最後の力を振り絞って咲いている。片隅に周囲の山の表示板があるが、現在地点から見た絵ではなく、山の同定には今一つ。北にはササ原が広がり、これから歩く稜線とその向こうに横川山の山並が見える。GPSで確認すると恵那山トンネルはちょうど富士見台の真下を通っている。

 山頂を後に、ここからは下りが続く。小屋で出会ったご夫婦を追って、かなり浸食された広い裸地を下る。中津川市外が一望できる。下りきったら右に向きを変えて、ササ原の道を歩く。小さな池の間を抜けて、なだらかに下っていく。中央アルプスは雲の中。立ち枯れの木もいくつか見られる。前方に見えるササの山並みには登山道が見える。登山道の先のピークが横川山のようだ。

 横川山とは違う西の山に向かって道は下っていく。西の山を巻いて登山道が続いているようだ。その山へ取り付くためには、一旦、木々の茂る谷を通過することになる。谷に向かってぐんぐん下っていく。帰りはこれを登り返さなければならないと思うと気が重い。ササ原の道はカエデやナナカマドのある湿った谷の斜面につけられた道になる。地面に落ちたムシカリの白い花びらを踏みながら、苔むした古い木道の脇を歩いて谷を回り込む。谷を渡ったところに「横川の名水」の表示。石の間から水が流れ出ていた。水は帰路に汲むことにして先を急ぐ。

 もう1つの涸れた谷を回り込んで、ツクバネソウの花を見ながら、横川山まで1.6kmの標識を通過して、鞍部から登りにかかる。マイズルソウがたくさん見られるが、まだ蕾の状態。この先、咲き始めたものを少し見かけたが、満開になるまでにはもう少しかかりそうだ。

 登りきってピークに出ると、前方に美しいササの山並み。うねって山肌をトラバースしていく登山道。バイケイソウの大きな株がいくつか見られた。もう1つのピークを乗り越えて、いよいよ横川山の山腹に取り付く。実に気持ちのいい道である。登り始めてすぐに先を行くご夫婦に追いついた。「その先にヘビがいたんですよ」と立ち止まってみえた。先頭を交代し、山頂まで0.5kmの表示を通過。GPSを見ると、山頂はこの先のピーク。振り向けば、恵那山はすっかり雲に身を隠し、横川山山頂にもガスが流れ始めた。

 花の終ったヒメイチゲを見ながら横川山山頂へ。山頂はピーク通過点のようで細長く、中央にベンチと標識があった。すっかりガスの中。小さなハエがたくさんまとわりつく。この時期、どこへ行ってもこれが悩みの種。我々と神坂小屋で出会った夫婦以外、誰も登ってこない。この先の南沢山までは20分ほどの距離。南沢山まで足を伸ばすことにした。

 ガスに包まれたササの斜面を下る。コメツガであろうか、西風のため枝は東へ伸びている。東に向きを変えて急坂を下りヒノキの林へ。左手に大きな崩壊地を見下ろしながら、蕾のふくらむヒロハユキザサやマイヅルソウの群落の中を歩く。葉を広げ始めたカラマツも目に付く。湿地帯を通過して緩やかに登りつめると南沢岳山頂に着く。

 ここも標識がなければ山頂とは気が付かない。顕著なピークではなく、周囲にはササや潅木があり、展望がいいとはいえない。南に横川山の山頂が望めた。長野県側から上がってくる道と、岐阜県側に下っていく道があり三叉路になっている。清内路古道と呼ばれる古くからある岐阜県と長野県を結ぶ道のようだ。中津川・恵那地域は古くから多くの道が交差し、多様な文化の交差点でもあった。道を介して多彩な地域資源が蓄積されており、今でもこの地域には特色ある風土や伝統が根付いている。この峠を東西の文化が行き来し、新たな文化が創造されたことを思いながら、少しだけ清内路古道を岐阜県側に下ってみた。ササに覆われた美しい道は昔から変わらないのであろう。地面に歴史の重みが感じられた。

 ここも虫がまとわりつくので、展望のいい横川山山頂まで戻って昼食にすることにした。先ほどのガスはすっかり消え、崩壊地や横川山を眺めながら、来た道を引き返す。横川山のベンチの前でランチにする。虫除け対策として帽子に防虫スプレーをかけ、また蚊取線香を3本束にして両端から火をつけた。この線香の威力が大きく、完全に追い払うことはできないが、まとわりつく虫はかなり減った。

 ランチメニューは冷やしソバと漬け物ステーキ(ハクサイやカブの漬け物に卵を落として炒めたもの)。漬物ステーキをつまみに冷えたビールが美味しかった。南沢山から戻ってみえたご夫婦は虫が多いので手早くおにぎりを食べて下山して行かれた。

 すっかりガスが消えた山頂からは北に南木曽岳が特徴ある山容を見せる。恵那山の山頂は黒い雲に覆われていた。今、登ってきたササ尾根や富士見台が大パノラマで広がる。すばらしいロケーションで飲むコーヒーが美味しい。単独男性が到着。多治見からみえたそうで、強清水から富士見台まで登る予定だったが、富士見台がガスで展望もなく寒かったのでここまで足を伸ばしたとのこと。南木曽岳の様子などを教えていただいた。なかなか面白そうな山で、また登らなければならない山が1つ増えた。

 男性は昼食後一足先に下山。我々も記念写真を撮って後を追った。恵那山や富士見台を見ながらの下りはこれまたすばらしい。開放的でリフレッシュするにはピッタリの山歩き。岐阜県の山の中でもこれだけササの中を歩く山はそんなに無い。「横川の名水」で水を汲み、富士見台までの登りに気合いを入れたが、思ったほど辛くはなかった。

 展望がよく回りを見回しながら登っているうちに、富士見台に到着。何人かのハイカーが散策していた。恵那山の上には厚い雲が乗っていたが、なだらかな山頂を望むことができた。それにしても恵那山は大きい。神坂小屋を通過。斜面の下りでゴミ袋を持って清掃している団体に出会った。「ご苦労様」と挨拶。うれしい気持になった。

 すぐに萬岳荘分岐点へ。さて、どの道を行くか? 南の小高いピークの西側ではラジコン飛行機を飛ばすグループが見られた。よく見ると、どうやらラジコンのグライダーを飛ばしているようだ。GPSで確認するとこのピークを越えれば神坂峠に着く。ピークに向かって登っていくササの中の薄い道を選んだ。道は次第にササに覆われ見えなくなっていく。ピークを越えた辺りでついに道が分からなくなった。

 ピーク西側を男性が南に歩いていたので、その後を追ってみると、男性は落ちた飛行機を拾いに来ただけであり、道は無かった。「この先道はありませんよ」とのこと。ササは膝上程度でそれほど歩きにくくはなかったが、強引に下るのをあきらめて引き返す。

 ラジコングライダーを見せてもらった。電池とモーターで主翼のフラップを上下させるだけの単純な仕組みであるが、物凄いスピードで思うままに操縦できるのが不思議だ。かなり強めの風が吹いており、風を切る轟音をたてて頭上を飛び回っている。しばし、飛行機を見ていた。おもしろそうで、やってみたいとい思った。

 鞍部まで戻って、ピーク西側の道を巻くことにする。ササの斜面に付けられた道は気持ちがいい。富士見台のガイドブックに登場する写真はこの位置で写したものが多い。神坂小屋方面の丸いササの丘陵が美しい。ここを登ってくるべきだった。頭上のグライダーが落ちてこないかとひやひやしながらピークを回り込んで樹林帯を抜け、神坂遺跡を横断して峠に出た。峠手前からさらに右に下っていけば強清水に下りる。峠からは笠置山が美しいシルエットを作っていた。

 恵那山組の車はまだたくさん停まっていた。いつもとはちょっと違ういい山歩きだった。念願の富士見台をクリアー。今度は雪の富士見台に登ってみたい。雪で覆われたササ原はすばらしいに違いない。

 帰路、1つ残念なことがあった。神坂峠から下る道の待避所2箇所ほどに粗大ゴミやゴミ袋が堂々と捨てられていた。清掃登山をしている方々に出会った後だけにちょっと寂しかった。

 クアリゾートに寄って汗を流した。(ネットで割引券をプリントしていくと100円安くなる) 帰路、パラパラと雨が降り始めた。中津川市内から振り返れば、恵那山は厚い雲に覆われていた。
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